76話
報酬を渡し二人組の旅人から情報を得たグレイは、早速教えてくれた場所へと足早に歩き始めた。瞳だけを左右に動かし、かつ怪しまれないよう笑みをその顔に浮かべながら。
ちなみに肩にいる
話をして時間が経った今も大通りは賑やかだ。
ただ、少しずつ人の混み具合が緩やかにはなってきている。昼時を過ぎてご飯を出す店もさっきより減っている。さりとて人が多いことになんら変わりはない様子だった。
そんな人込みの中を、彼は滑るように抜けながら前へと進んでいく。何度かぶつかりそうになるものの、ほんの少し髪の毛がかするほどの距離を取りつつさらりと交わして歩いていった。
そんなこんなで前へと進めば、いつの間にか目的の場所にたどり着いていた。大通りの入り口近く―――このランデルの町の門から入ってすぐそこにある細い路地である。
「……着いたかにゃ?」
浮かべていた笑みを消し、グレイはその路地の奥を見つめた。
奥は少し薄暗く、路地というだけあって道幅は大通りよりかなり狭い。だが完全に日の光が当たっていないとはいえなさそうな雰囲気だ。かすかに太陽の光が家と家の隙間から入っているし、そもそも武装する兵士がいるとはいえ暗い場所では捕縛もなにもできないだろう。
息を静かに吐き呼吸を整えると自らの気配を消した。そしてゆっくりとその路地に向かって、歩きだした。
細い路地に一歩踏み出せば、大通りの賑やかな喧騒はすぐに遠退く。同時に風の音や歩くときに鳴る靴の音だけがそこに高らかと響き渡った。
靴の音はグレイのもの。1つしか音がしないのはまだ路地に入ったばかりで、誰一人として兵士らしき人物には出会えていないからだろう。
眠そうにしていた白翼猫も路地に入ったときからじっと肩の上にいる。ただ、耳を尖らせ瞳だけを動かして周りの様子を伺っているようだ。きっと主であるあの女性を見つけるために違いない。暴れる様子のない彼女を見て、グレイはほっと息をついた。
ここで暴れたりすればきっと兵士たちに気づかれてしまうのはわかっている。今どこに彼らはいるのか、そしてあの客人と一緒にいるのか分からないのと同時に相手の人数だってどのくらいなのか分からない状況だ。そんな状態で突っ込めば怪我をすることなど目に見えている。
このままこの白翼猫がじっとしていることを祈りつつ、グレイはまた歩き始めた。
歩き始めてからはや数十分。
まだ兵士たちに会う気配はない。それどころか今のところ、ここの町民たちに会う気配すらもない。お昼時で大通りが賑やかなせいなのだろうか。
・・・しかしいつどこで何が起きるのかわからない今、この先少したりとも油断はできない。周りの警戒はしつつ、グレイの歩みは続く。
さらに数十分後。
まだ出会う気配はない。路地の中を歩き始めてからもう三十分以上も経っているのに、だ。
どういう事だろうか。兵士たちは勿論、ここに住んでいるはずの町民たちにも会うことがないとは。
・・・あの二人組の旅人から貰った情報は、まさかガセだった可能性がある?
(……あり得なくもないのにゃ)
最悪の可能性が頭に浮かび上がり、グレイはストレスでため息をつきたくなった。
もしそうだとしたら、今度あの二人組に会ったときにはそれ相応の土産を渡さなくてはならない。そうでなくては偽情報を掴まされたこちらの気がすまなくなる。
一体全体どうしてくれようか・・・?
―――少し物騒なことを考えていた時のことだった。
―――『……甘い、匂い。これは………まさかっ……………!!』
・・・あの声が聞こえてきたのは。
同時に肩にいた白翼猫がたん! とグレイの
「っどこにいくのにゃ!?」
静止も聞かずに一目散に走り始めたのだ。
そのスピードは普通の猫より驚くほど早く。すぐに距離は大きく離れた。
―――呆気にとられていた彼だったが。
舌打ちを1つ落とすとグレイもまた走り始めたのである。
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