60話
* * * * *
月が雲に隠れ、辺りが闇に包まれた頃。まだ書類の整理をしていたドミニクの部屋に一人、訪れる客人がいた。
トン、トンと戸を叩く音が鳴る。ドミニクは一度書類を見ていた顔を上げると、中に入るよう外の者に声をかけた。
数秒のあとにゆっくりと戸が開き、外にいた来訪者が静かに中へと入ってくる。
入ってきた者を見てドミニクはゆっくりと椅子から立つと、
「……まずは席へお座りくだされ、話はそれからですじゃ」
と歩きながら案内した。
「……久しいなドミニク。いつぶりだ?」
若い男の問いに老人である彼は、静かに微笑みながら答える。
「貴方様が王国を出て以来ですぞディック殿。いや……殿下、と呼ぶべきですかな?」
来訪者、もとい―――ディックは、目を伏せて否定の言葉を吐き出す。
「……ここは俺の
「なれば先程のように『ディック殿』とお呼びいたしましょう。だからと言って敬語が抜ける訳ではないので、そこは了承頂きたい。何しろもう習慣化しているもので。それでは―――……」
ひとしきり笑い終えると、彼は表情を引き締めて口を開いた。
「―――今宵は一体、どのようなご用件か?」
と。
雲が晴れて、月が顔を出す。そしてその光は部屋のなかのドミニクやディック、それから置いてある家具に差しかかった。
ちょうどその光が差しかかっているディックは銀色の長い髪がキラキラと輝き、瞳にも光が当たっているのでそれはそれは幻想的で美しかった。
・・・彼は問いかける。
―――「あの国で一体、何が起きている?」
と。
* * *
時は遡り、ここはとある城の
夜なので廻りには沢山の灯りが瞬いている。ほとんどが魔法による
しかし星のおかげかはたまた雲ひとつない空だからか、その場所はとても明るい。部屋のなかから漏れる魔力光のおかげもあるだろうがそこはさておき。
その露台に一人の青年がいた。
黒く短い髪、何かを射ぬくような朱い瞳。着ている衣服は上質な布で出来たシャツと裾の長いズボン。暑いのか気だるげなのか少しだけ胸元を緩ませはだけさせている。
式典や
落ちないように造られた鉄柵に身を預け、青年は目の前に広がる景色を見ていた。
夏であるはずだが青年の廻りにはこちらが冷え込むような―――そして身体中の熱を根こそぎ奪われるような、冷気のようなひんやりとした空気が漂う。
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