59話

 気まずそうにグレイが唇を噛む。それから何故かエレミアがシュンとしたような悲しげな表情になった。近くにいたスティーブやリディアナもどこか暗い表情になっている。どうやら思うところや、身に覚えがあることを思い出しているようだ。


 反論がないことを確認したレイラはグレイの顔をもう一度しっかりと見ると、

「……改めて父からの伝言です。グレイさん、――――」

 父・ダニエルからの伝言を最後に話を終わらせた。







 ―――数時間後。

 伝言を聞いたグレイが泣きそうになっているのを、彼以外の皆が慰めた。まだまだ距離はあるかも知れないが、少なくともほんの少しだけ、彼との距離は近づいたように思えた瞬間だった。


 それが終わったところでレイラはドミニクにあの村で起きたことの一部始終を最後まで話した。なぜ一晩で村が消えたかの理由や状況、それから何が原因かなど何もかも全て。


 話をしている間、ドミニクは静かに目を閉じて聞いていた。

 あまりにも静かなので怒りや憤りがないのかと疑問が生じる。しかし握りしめていた両手は震えており、こそが怒りや憤りがない訳ではない確かな証明となっていた。怒りはあれど表に出さないのは、この場で感情を見せるほうが失礼に当たるのだとわかっているのだろう。


 レイラの話が終わるとドミニクはただ一言、

「……そうか」

 と呟いた。

 しかし難しい顔をして全員に退室するよう淡々と命じ、静かに執務の机の方に戻る。

 指示を受けた5人は頭を下げ、静かに部屋を出ていった。レイラはちらりとドミニクを見てから扉を潜り抜ける。


 できることはした。あとは待つのみと少しばかりの悔しい気持ちを押さえつけながら。








 バタン、と戸が閉まる。

 ドミニクはそれを確認すると深く息を吐き出した。

 部屋のなかは先程賑やかだったのに対して不気味なほどに静かになる。聞こえるのは空いた窓からの鳥の鳴き声、そして小さく風の吹く音のみ。

 その風はなかに吹き込んで机の上にあった沢山の書類をいくつかフワフワと舞い上がらせる。少しの間それは浮いていたものの、落ち葉のように床に落ちていった。

 それを見ながらも伝説の傭兵は難しい顔を崩そうとはせず、ぼやくように一言だけ呟く。



「……因果、かのぉ。また出会でおうてしまうとは……」

 言葉は空気に溶けていった。








           *  ✴  *








 レイラとディックの二人はギルド内部の客室へと案内された。場所はギルドマスターのいる部屋のギルドホールの隣にある離れの大きな部屋。2階東側に窓があって中庭が見えるところだ。

『また話を聞くかもしれないから、暫くはここに泊まっていってほしい』

 とはスティーブの言葉である。

 聞けばなかの間取りは広く、キッチンや洗面所、さらにはお風呂場もなかに付いてるというではないか。元々が貴族の家だったからだろうか、置いてある家具もどこか気品のある調度品ものばかりだ。

 ベッドはきちんと整えられてシワひとつ見当たらない。掃除もされているのだろうか、床の上や棚の上もホコリひとつ見当たらない。

 客室だからこそ綺麗を維持しているのだろうが、そうであってもやはり傭兵組織ギルドという場所はすごいなとレイラは純粋に思った。






 そのあとは特に用事もなく、二人は夕食をその部屋でとった。そのあとお風呂に入り、早々に就寝するのだった。

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