三章 出会いと旅立ち

37話



 ストック村、その跡地前。



「……さすがにこれは酷すぎるな。村があとかたもないぞ」

 剣を背に携えた濃い茶髪の青年が顔を歪ませて呟いた。

 黒よりの灰色のマントが風にはためいてなかの装備がちらりと顔を覗かせている。とても簡素なもので、つけているのは鉄の胸当てと硬い皮の籠手だけだ。今回は俊敏さを特に強調した装いらしい。

 その近くでは身長より大きな樫の木の杖を持ち魔導士ウィザード特有の黒いローブを身に纏う少女が、魔法を使ってなにやら痕跡を調べている。

 黒いローブの胸部分には魔導士の証である薔薇と三日月。それからローブの裾の部分には、金色の糸で蔦が刺繍されている。顔が見えるくらいに被ったフードから、肩までに揃えたオリーブのような深い緑色の髪が見えた。ちらりとみえる鼻のあたりには少しだけだがソバカスらしきものもある。

 そばには彼女の使役動物だろうか、鼻を上に向けた犬のようなモノがいて。それは空気中にあるなにかの匂いをクンクンと嗅いでいた。




 そこから数歩ほど離れた場所に、石で簡単な墓を作る赤い着物の少女が一人。

 腰まである長い白の髪をひとつに纏め、全て後ろへと流している。頭の上では垂れた二等辺三角形の耳と腰のあたりでは五つに別れたしなやかな白い尻尾。どうやら狐の獣人族のようだ。

 彼女は墓を作り終わると手を合わせて村人たちの冥福を静かに祈る。それから剣士の青年と魔導士の少女の方にむかって歩いていった。


 慌てたように戻ってくる彼女をみて、

「もう、なにやってたの。一応危ないんだからこの辺は」

 と魔導士の少女が言う。

「ご、ごめんなさい。ただ、小さいお墓を作りたくて………その、そうしたほうがいいかなって思ったものだから………………」

 しどろもどろになりながらも着物の少女は返事を返した。その姿は一生懸命ゆえに、なんとも健気で可愛らしい。


 とはいえ、魔導士の少女は彼女の性格を知っていたのであまり気にはしてないようだった。

「……そう。エルは真面目ね。そこが貴女のいい所なんだろうけれど、気を付けてね? 見ていて危なっかしいんだから」

 魔導士の少女が少し笑いながら言葉を紡げば、

「うん、ありがとう」

 えへへ、と着物の少女エルははにかんで笑った。




          *  *  *




「………で、なにかわかったか? 些細なことでもいいから教えてもらえると助かる」

 彼女たちの会話が終わったのと同時に、剣を持つ青年が声をかけた。

 するとさっきまで笑っていた魔導士の少女は真剣な表情になった。鼻をもたげていた彼女の使役動物が、目線を彼女に向ける。

「……痕跡、と言えるかどうかは分からないのだけれど。でもここら辺は異常に魔力マナの量が多い。匂いもかなり濃いし、なんていうか、まるで大きな魔法攻撃がここであったような。でもどちらかというと魔法を制御できずに暴発させたみたいな……そんな感じがしてる。ここについてからずっと」

 魔導士の少女は淡々と判ったことだけを言葉にした。それと同時平行で小さく呪文を唱える。


 ―――すると。杖から緑色の光の粉のようなものが噴水のように吹き上がり、綿毛のようにふわふわと浮き上がると、風に流されて周囲を漂っていった。





 そして、ちょうど一分ぐらい経てば。

 魔導士の少女以外には見えていなかった色とりどりの糸が、その場所に突如として現れた。魔導士の彼女のいる村の中心だった場所を初期地点として―――何重にもぐるぐると巻かれた状態になりながら。

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