38話
それを見た青年が、
「なんだ、これ…………っ」
と目を見開きながら言った。隣で見ていたエルも、
「どうしてこんなに……っ、だって、ありえないです!! こんなの……見たことない」
苦虫を擦り潰したような顔になってその光景を見ている。
そもそも
一般的には
色は様々、生物によって異なるのが特徴。本来は見えないものなので確たる確証はないが、形としてはパンなどに使われる粉のようなものに例えられるだろうか。それらは呪文を唱えることで糸のように紡がれてひとつになり、それが杖や
また、視界に視認の魔法をかけることによって見えるようにすることもできる。この場合は主に監察するという目的のために行う事が多いとか。
元来この力は生物の体内に宿っているため、周囲にはごく少量しか漂うことはないと言われている。諸説あるが空気中にも魔力は少なからずあると言われているからだ。
場所にもよるが、何重にも巻かれたようなものになることなど滅多にお目にかかれない。それこそ大魔法や魔法による実験の事故ぐらいでなければあり得ないもので。
―――そういうわけでこの場所にある
「ね、可笑しいと思わない?」
魔導士の少女は見えるようになった糸のようなもの、すなわち
「………俺はこれに関してなにも知らない。だが知らない俺でも、これは絶対に可笑しいと思う。こんなに大規模で大掛かりなものは今まで見たことがないぞ。生まれて初めてだ」
青年も手をそっと伸ばす。けれどもふわり、と糸は彼の手を避けていった。
少し複雑な表情になるも、青年はすぐに真剣なものに変えて考えるポーズをとる。
「………まぁ纏めるとだ。なにかここで大きな魔法を使った者がいた。人数はわからんがたぶん数人程度だろうな。しかし何らかの原因かはたまた意図的にか………そのせいで魔法は暴走、事故を起こした。で」
「そのせいでこの村の人たちは…………っ」
続けて悲しげに呟くエル。
「……たぶんね」
魔導士の少女もグッと眉間にシワを寄せた。それぞれが口を閉じ、次第にしんみりとした空気に変わっていくのがわかる。
そうして誰もが無言になったその時。
「………周囲の偵察、
声とともに音もなく三人の目の前に現れた者がいた。
黒くふわふわと柔らかい髪に同じ色の可愛らしい耳と琥珀色をした縦長の瞳。腰には細くともしなやかな尻尾が揺れている。彼はどうやら猫の獣人族のようだ。
突然の登場に驚く三人。特に狐の獣人であるエルは現れた猫の青年に顔を赤く染めている。感情が出やすいのか
「助かる。どうだったグレイ?」
剣の青年が訊ねた。
「今のところ我々の他に人はいないようですにゃ。それにおそらく周りの森にまで被害はあると見ていいですにゃね」
見たことを報告するグレイと呼ばれた青年。その言葉にエルが悲しそうに俯いた。
「……そうか」
剣の青年も頷いたきり、考え込んでしまう。
「……やっぱり魔法攻撃が原因のひとつかもしれない。でも、こんな大規模な魔法なんてあったかしら…………―――」
魔導士の少女もまた、ブツブツと一人で呟き始めた。
しかし急にグレイは「あぁそうだ」と思い出したかのように続きの報告を始めた。
「……そういえば森のなかに家のような
と。
さらりと何てことないかのように言うグレイ。その言葉に少しの間呆けた三人が、
「「「っはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」
と、隣町まで聞こえそうなほどの大声になったのは―――言うまでもない。
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