36話

 傷一つ、割れたガラスの跡一つも見当たらずそれどころか砂埃すらないレイラの家。あの爆発があったあとのはずなのに、なぜこんなひと目のない場所にあるというのだろうか。

 答えは一つ。全ては彼女の父親が家の敷地に結界を作っていたからである。




 レイラの父・ダニエルは村一番の医者だったのと同時に、ストックの村で唯一の魔導師ウィザードだった。特に防御壁やトラップなどを生成する結界魔法が彼の得意とするものだったのだ。同時に医者としての顔を見せていた彼は、得意な結界魔法を使ってあらゆる人々の病気を治していたのである。


 今回家に掛けられていたのはその結界魔法のひとつ、『聖域サンクチュアリ』と呼ばれる防御壁の結界である。

 効果は2つあって、一つ目はあらゆる害からの絶対防御。魔法攻撃は勿論のこと、災害などの被害もものともせず、術者や解呪者による解除がない限り絶対に破ることのできない代物だ。例え結界をかけた術者が死んだとしても数十年以上はこのままの状態になっているとかいう、半永久的なものでもある。


 そしてもうひとつ。

 それは防御の際の周囲からの撹乱。あらゆる土地の風景に結界で囲んだ場所を溶け込ませることができる効果だ。例えば魔法攻撃やなんらかの災害が起きたときに、その効果が現れるようにダニエルが設定をしていたらしい。

 ではなぜディックが解除できたのか。それはダニエルからレイラのことを頼まれていたから。万が一の時に、と解呪の文を教えてもらっていたのである。



 家が壊れていないことを軽く確認したあと、ディックは敷地内へと歩いていった。

 レイラを休ませたいのもあるが、自身も疲れてしまった心身を休めたかったから。






          *  *  *






 結局、レイラが起きたのはまるごと一日経ってからで。あの発作のようなものの反動かなにかなのだろうか、起きたときもまだ若干だが身体の調子が悪そうだった。


 ―――それに夜になるとなにか悪い夢を見るらしい。よく発狂したような声をあげながら夜中でも飛び起きるようになった。そのたびにディックは近くにいき、彼女を優しく抱き締めながら大丈夫だと宥め、そのまま眠って過ごした。そうでないと安心しなかったからだ。









 そんなこんなで何事もなく時間は過ぎ、あの爆発事件から一週間くらい経った頃のこと。村の跡地に客人らしき誰かがようやくやって来たのである。


 

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