22話
まずは父親の部屋の掃除だ。ここはあの日、父が隣町へと働きに出た時から配置はあまり変わっていない。
それも当然といえば当然だったりする。父がいつ帰って来ても大丈夫なように、家具を動かすことなく掃除を欠かさずしていたからだ。
しかし机のうえや棚の中は触ることなくほとんどそのままの状態で。触らずに掃除をしていたのは、少しの面倒くささもあったりしなくもない。
けれど、今はそんなことも言ってられないので。さっそく片付けを始めなければと、レイラは気合いをいれて掃除の準備を始めた。
まずは机のうえ。
書類はほとんどなかったが白くなるほどホコリが積もっていたので、先に机のうえの本をベッドのうえへと移動させていく。そのあと小さい塵取りを使って取れるホコリをすべて床へと落とした。本の上にもホコリが積もっていたのでそれらにも塵取りを使用することも忘れない。売るにしてもなるべく綺麗な状態のほうが価値は上がるからだ。
ホコリを取り払った机は水で湿らせて絞った布を用意し、隅から隅まで汚れがないようきれいに擦り取る。そのあと乾いた布で余計な水分を拭き取っていく。
終わったあとでベッドのうえに動かした本を、また机のうえに戻して並べなおした。
次に引き出しの中。入っていたノートやら筆記用具やらを全て机のうえに出すとその中を湿らせた布で拭きとり、乾いた布を使って拭き取ることも忘れずにしっかりとやり終えた。
服が入った棚は中身をすべて取り出し、空っぽの状態に。棚のなかもわずかにホコリが積もっていたので、とりあえず下にはたき落とした。
それらが全て終わるとレイラは片方の手を空中に差し出し、集中するために目を閉じた。小さく呪文を唱えれば、窓が開いてないというのに小さく風が部屋のなかを吹き荒れるではないか。
しばらくすれば小さな風の渦が手のなかに忽然と現れた。そして緑のワンピースを着た小さな女の子がその渦のなかからポンッ! と飛び出すようにして出てきたのだ。
その女の子はふわりふわりとその場で漂いくるくるとその場で廻ったあと、呼び出したレイラの頬にくちづけた。可愛らしい精霊にレイラは手伝ってほしいことを小さな葉っぱを渡してお願いする。
そうすれば風の精霊・シルフは元気よく頷き、両方の腕をバッと大きく広げたのだ。
すると。
突然強い風が部屋の中を駆け巡った。ベッドの上の服がバサリと舞い上がり、本がバッと勢いよく開いてページが音をたてながらめくれていく。
そんな部屋のなかをレイラは素早く通りすぎると、近くの窓を次々と全開に開けていった。同時に、ホコリを巻き上げた小さな竜巻が窓を飛び出した。窓から出た竜巻はぐるぐると勢いよく渦をつくりながら、空の彼方へと消えていく。
その間の時間はわずか数分ほど。ほぼ一瞬に等しかった。
きれいになった部屋をみて満足そうに頷けば、精霊・シルフは笑顔になり手を振ってすぅと空中に消えた。
* * * * *
使われずに汚かった父親の部屋は、さきほどとは比べ物にならないくらいきれいになった。
風の精霊の影響で服がベッドから落ちていたりいくつかの筆記具がコロコロと床に転がっていたりするが、そんなにいうほどのことではない。拾って片付ければいいだけの話なのだから。
掃除が終われば次は物の選別を行う時間だ。ベッドの上にある父親の服を用意していた袋に次々と入れていく。満タンになればそれを持って部屋を出ていき、リビングに置いてまたあの部屋に戻った。その繰り返しを何度か行い、全ての服をリビングに出すとレイラはすぐに次の作業へと移った。机の上の本やノートなど、いるものやいらないものなど細かく仕分ける作業だ。
ほとんどが父の仕事の本だったが、なかにはおとぎ話の本や歴史の本がちらほらと紛れており。そのいくつかはレイラも知っているものだったので、ありがたくもらうことにする。
そのたくさんある本のなかに、ひとつだけ気になるものがあった。それは裏と表が鎖と錠によって繋がっているもので、なにかの鍵がないと開けることが出来ないようになっていた。鍵はないかと探してみるものの、それらしき形は周りにない。紛失したのかあるいは買い上げた時点でない状態だったのか。
気になって手に取ったレイラはどこかに開けられる場所はないかと外側を調べ始める。緩んでいる場所があれば工具か何かで強引にでも開けられるからだ。
だがそんな場所が見てすぐにあるはずもなく。やはり鍵で開けるしか、他に方法はないようだった。
とはいえ今は片付けの時間だ。例の本は所持する方へと分類して、残っている本の選別を急いだのであった。
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