21話

「~~~~ーーーー……………っ!」

 声にならない悲鳴とともにバッ! とレイラは勢いよく上体を起こした。しばらくは動揺で辺りを見回していたが夢だとわかると安堵にも似たため息が漏れでていく。


 窓から日の光が直接入ってきている。どうやら昨日寝るときに近くのカーテンをちゃんと閉めていなかったらしい。

 眩しくて手を翳したところでふと背中の具合がとても良くないことに気づく。

 手を後ろに回して触ってみるとどうやら夢を見ている間に汗をかいてしまっていたらしく。服が汗を随分と吸っていたため、背中を触った感触がとても気持ち悪いことになっていた。

 それからなぜかはわからないが・・・身体中が小刻みに震えていて。まるで全力疾走したあとのように肩で息をしているようだった。

(なんだろう、この感じ……)

 あまりにも嫌で不快なの気分になったので、レイラはベッドからすぐに降りて棚から今日の服と下着を出すと嫌な夢を忘れるためにさっそくお風呂場へと向かった。






 汗をしっかり流したあと今日の普段着に着替えたレイラは、ダイニングに行くと早速朝御飯の用意を始める。

 けれど、あまりお腹が減ってないのでひと切れのパンとコーヒーで軽く済ませた。

 食事を終えて食器も全て洗い上げる。そのあと、手紙を持ってくると改めて中の内容について考え始めた。





 まずはひとつ目の問題。それは『治らない病気にかかっていた』ということ。


 毎月一度だけ帰ってくるたびに、レイラは父に訊ねた。『元気にしてた?』と。

 そしてそのたびに父は律儀にも答えてくれた。

 『元気だったよ。仕事は相変わらず忙しいけどね』と。こちらを安心させるような微笑みを顔に浮かべながら。

 実際問題、父を見ていても苦痛そうな顔や悲しそうな顔なんて全くしていなくて。元気にお仕事を頑張ってるんだと当時のレイラは思っていた。

 そうやってずっと思っていたのだ。

 しかしそれはたぶん、父が必死になって隠していたことだったんだと冷静な今になって思う。レイラは全く気づかなかったが。

 なぜ自分の病気のことを言わなかったのか。理由は何となく想像つくが、今はそれを頭の片隅に追いやった。考えるべきことはまだいくつもあるのだ。



 次に二つ目の問題。それは『グラスウォール王国の役人が村に来る』ということ。そしてその目的はもしかしたら父親と関係があるかもしれないということ。

 他の国の人間がここに立ち寄る、というのはこのご時世だとあまり珍しいことではない。ストックの村は宿場村として有名だからこそ、多くの人々が宿に泊まったり休憩を兼ねて、この村に寄ったりしてくれるのだ。

 がしかし、国を治めている役人が村に来るのはまれなことではある。というのも役人の場合、ストックの村を通りすぎて城下町の近くにある大きな町まで一気に進んでいくからだ。その方が道中が楽だし、大きな街の方がいい宿屋があったりと防犯面でもそれこそ大きな街の方が安全だったりするのである。

 だからこそ役人が―――ましてや隣の国の役人がこんな小さな村に来るのは、珍しいし初めてなのだ。





 考えるべきことは大きく分けてこの二つだ。内一つはもう何となく答えがわかっているので置いておくが、もう一つに関してはなぜこの村に来るのかが分からない。

 理由は手紙に書かれていたことと関係があるのか。それとも別のことが原因か?


 わからない。わからなさすぎて頭が痛くなりそうだ。


 あまりの痛みにレイラは考えることを放棄する。それから今は考えるよりも動くべきなのだろうと、ひとまず家の中の整理のために動き出したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る