20話

 ―――これは一体、誰かの記憶なのだろうか。





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 白い空間のなかで可愛らしい声が聞こえてくる。

『ねぇねぇ    、いっしょにおそとにあそびにいきたい! いいでしょ?  ねぇいいでしょ?』

 それはまだ幼い、子供の声。見えるのは小さなシルエットだ。声の高さや大きさからして女の子のような影は誰かと遊ぶ約束をしているようで、もう一人いる服の裾をしきりに何度も引っ張っている。



 また一つ、隣に影が現れた。聞こえてくるのは―――

『ごめんね、レイラ。    はまだやることがある。だからね、一緒に遊びには行けないんだよ』

 ―――子供をやんわりとあやす、懐かしいおとこひとの声。




 それが誰なのか全くわからない。けれど自分にとってその人は、とても大切な人の声のような気がした。

 真っ白な空間と暗い影のせいであの二人が誰なのか、そしてどんな姿形をしているのかはわからない。顔も見えないし名前もわからない。

 だけれど今、会わなければもう二度と会えなくなるような―――そんな予感がして。気がいた『   』は走りながら両手を精いっぱいあの影に向かって伸ばした。


 しかしその手は全く届くことはない。二つの距離が大きく開いているのはどこから見ていても明白だったから。



 やがて2つの影は、おもむろに手を繋ぐとどんどん奥の方へ歩き出した。

 焦る。焦って、二人を追うようにこちらも動かす足を早めて手を目一杯、これでもかと真っ直ぐに伸ばして掴もうと躍起になる。

 それでも全然届くことはなくて。それどころか、どんどんとその距離は開いていった。





 やがて2つの影は白い空間に飲み込まれ、完全にわからなくなった。同時にガクンと下に引っ張られる感覚とともに、彼女は下へとまっ逆さまに落ちていく。











「    ーーーー……っ!」

 ―――懐かしいの名前を大声で叫んだ途端に、意識は白く混濁した。





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