19話

 手紙を読んでいる途中でポタリ、ポタリと雫が落ちた。その雫が涙だと気付いたのは、目の前がぐしゃぐしゃと歪みに歪んでボヤけてきたから。

 落ちた雫は便箋に小さな染みを次々とつくっていく。紙を彩る水玉のように、小さな小さな池のように。

 側にいたスカイが不安そうに鳴き声をあげた。オロオロと部屋の中をいったり来たりと往復し、どうしようかと迷いながら気遣うように様子を見てくる。

 嗚咽はんどん漏れてきている。このままではきっと抑えられないと、顔を便箋で隠してレイラは大きな声を上げながら泣いた。

 泣き声は部屋中に大きく響き渡った。



 



 数十分後。

 目の回りが熱を持つまで泣いたあと、ゴシゴシと涙を拭いた。泣くのを強引に止めて、それから水に濡らしたハンカチで目の回りを冷やす。

 気づけばすでに夜の時間帯だ。何も食べていないが、とにかく今は眠りたかった。

 寝るための準備はしかし、部屋着から寝間着に着替えるくらいのものだ。お風呂は済ませていないが、今はゆっくりと入る気分ではない。

 体を布団のなかに潜り込ませ、恐怖や不安から逃れるために目をギュッと強く閉じる。





 ―――今はもう、なにも考えたくなかった。

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