18話

 次の日。父ダニエルの葬式は昼頃、厳かに行われた。

 その式にはたくさんの人々が教会に訪れた。ストック村の住人たちは勿論のこと、父の仕事先の隣町の人たち。またお世話になっていた病院の人たちまでもが最後に会おうとこの式にかけつけた。

 もちろん家族であるレイラも隣の家に住むディックも、そしてレイラの親友であるジェシカも葬式に参加した。


 多くの人々が彼女の父親の死に涙した。


 多くの人々が彼女の父親の死を悲しんだ。


 多くの人々が彼女の父親との別れを惜しんだ。




 葬式が終わったあと。

 父親の努めていた病院の看護婦が、一枚の分厚い手紙をそっとレイラに渡してきた。看護婦の人曰く、その手紙は亡くなる一週間前から書いていたという。

 受け取りながらレイラは驚いた。なぜこのような手紙を残したのか、またいつの間に書いていたのか全然わからなかったから。お礼を言いつつも、とにかくすぐに帰って読まなければと気持ちが早まっていくのがわかった。



 家に入り、すぐに手紙を開ける。

 なかには二つ折りの便箋が二枚と薄汚れて模様の見えないペンダントが入っていた。手にとってそのペンダントを確認すると、少しくすんではいるが白金プラチナチェーンが通してあることから一目でとても高いものだとすぐに気づく。

 持っていたハンカチでそっとペンダントに付いていた汚れを拭き取れば、その部分だけ綺麗になって麗しい鳥が描かれたあでやかな紋章らしきものがちらりと見えていて。どうやらペンダントに嵌められている宝石は彼女が持っている小刀に嵌められているものと同じモノらしい。

(なんだろ、これ)

 ひとまずそれは机に置いて、次にレイラはびっしりと書かれている手紙の方を開いて読み出した。

 内容としては次のようなものだった。





               ◇◇◇◇◇◇◇





 愛しいレイラへ



 この手紙がお前のところにあるとき、私はもうお前と一緒にはいないのだろう。なぜならこの手紙を書くときにはすでに、一生治らないとされる難しい病気にかかっていたからね。

 まさか医者である私がこんな病気を拗らせるなんて、人生なにがあるか分からないものだ。まぁ創世神がお決めになった私の運命さだめというやつはそういう風に決まっていたのかもしれない。

 だからこそ。お前を置いて先に逝ってしまうことを―――どうか、どうか許してほしい。本当にすまない、レイラ。



 ひとつ、お前に伝えなければならないことがある。

 もうすぐそこにグラスウォールの役人が訪ねてくるはずだ。以前病院に治療を受けに来られた患者からそんな話を聞いてね、嫌な予感がしたから知らせたかった。

 詳しくは話せないが、今のグラスウォール王家とは一度だけ拝謁したことがある。色々とごたごたがあって私はその王家から因縁をつけられていてね。もしかしたら、君に直接言いに来るかもしれないんだ。

 だからこそその前に、お前はその村から出て欲しい。


 資金についての問題はない。庭の中にある倉庫の地下室にたくさんの宝石やお金があるから旅の資金として使うといい。そのためにずっとそこで貯めてきたのだからね。

 それから私の部屋にある本はレイラ、お前が持っていなさい。役人なんぞに渡してはいけない、大事なものも中にある。信用できない者たちには絶対に見せないようにしなさい。それ以外のものはお前の判断で売り払うなり処分なりするといい。

 とにかくまずは村から離れることを優先しなさい。




 最後になるがこれだけは知っていてほしい。

 いつまでも愛しているよ、愛しい愛しい大切な我が娘。君の未来が幸福であるよう、遠い場所でずっと祈っている。






   ―――――ダニエル・ウィルヘルム=セシュレイ

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