17話


 ―――レイラには小さい頃から奇妙な発作のようなものがあった。

 いや、簡単に『発作』と明言するにはなにかが違う。ディックやダニエルが『発作』と名付けているだけであって、そもそもの名称がわからないままなのだ。もちろん対処法だって、それ以前に原因だって未だに判明していないのだから。


 この現象は彼女の体が少しずつ光を帯び、灼熱に近い熱がレイラの身体を包みこむところから始まる。そしてそのあとはうわ言のように『ごめんなさい』と謝罪を何回も呟くのだ。発作が起こる度に何度でも。何が引き金となって、またその時に何を見て彼女が謝罪を繰り返すのかは、あとにも先にも不明である。

 厄介なのはこれだけでなくその後も同じで。どうやら発作の間はその時の記憶がほとんど残ってないらしく、どうしてこうなってしまうのか本人にもわからないらしい。

 彼女の父親ダニエルが未知の病気ではないかと診察してみてもわからずじまい。だから対策らしい対策は、実際にそれが起きてからディックが対処し続けてきたのだ。




 まずディックは彼女の熱い身体を自分の方へと引き寄せてギュッと抱き締める。それから繊細なものを扱うかのように、ゆっくりと背中をなで始めた。

「大丈夫……大丈夫だから。ここに俺はいる。だから大丈夫。一人じゃない」

 と耳元で小さく呟きながら、宥めるようにゆっくりと。

 そうすればだんだんと身体を包んでいた光が輝きを失い始めていき。同時に灼熱のように熱かった身体も、少しずつ退いて治まっていく。


 やがてレイラのはようやく完全に治まった。同時に彼女はまた、泥のようにこんこんと深く眠り始めたのである。

 眠ったのを確認できたディックは大きく息を吐き出した。発作が落ち着いたとはいえ油断はならないが、それでも眠ることができるのはいいことだから。今は辛くても、体をゆっくり休めていてほしかった。

 軽々とレイラを抱き上げたディックはリビングを出て彼女の部屋へと入っていくと、布団に横たわらせた。それから布団を彼女の身体に被せ、スカイにそばにいるよう伝えたあとで家に戻ろうとした。

 幼馴染とはいえ異性なことには変わりないわけで。気にならないことはないが節度を持って接しなければと理性を働かせて離れようとしたのだ。

 けれど、離れることはできなかった。寝ぼけているのか、レイラがシャツの裾をキュッと掴んで泣きそうな声で誰かの名前を呼んだのだ



「……っしょに、いて? ねぇ……お願い、     

 と。



 慌ててそれを引き離そうとしてみても掴む力が弱まる気配など全くなく。

 ディックはまたため息をつくとレイラのベッドの隣へと足を進めた。床に腰を下ろしてシャツの裾を掴んだ彼女の手をそっと広げ、自らの両手でしっかりと包み込む。

 ギュッと力強く握りしめ、自身の額に当てると目を閉じて夢のなかへと意識を落としていった。

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