9話

 レイラたちが住んでいるのはストックという、2つの国の国境の近くにある小さいながらも人通りの多い賑やかな村だ。隣の国へ行くための国境門が近いのもあってか、村のなかには小さな民宿が多数あって、家族ぐるみで経営しているところが多い。

 宿場村として近隣ではちょっと有名な村でもある。


 


 ちなみに。

 隣接している2つの国のうちの1つは精霊神であり"十柱の神"の一人でもある『不死鳥フェニックス』の物語が多く残る国・グラスウォール王国だ。多種多様の種族が生活を営んでおり、また千年以上の歴史を持つ古い国でもある。

 人口は約1億2000万人。うち約6割ほどが人間、残り約4割が獣人族やエルフ族、または他種族の血を半分だけ持つとされる半人ハーフの者たちとなっている。国の紋章は花飾フルーロネりのついた十字架とひし形の盾、そこに描かれたドラゴンの頭である。

 昔はまた別の形だったらしいが、それが本当かどうかは定かではないとのこと。


 もうひとつは数の少ない長寿のエルフ族が住まう国・エンデリア王国。人口の約9割以上がエルフ族で、隣の国であるグラスウォールとは古くから友好関係にある国だ。

 ここも千年以上の歴史を持つ由緒ある王国である。紋章は上の方が六角の盾にソート十字ワールの2本の剣が交差していて、その下にフェアリーフレイムと呼ばれる花と2本の蔦がボルデュールどりされて鮮やかに描かれている。


 そして―――ストックの村があるのはまだ樹立してから数百年という歴史の浅いアルステッド王国。人口の約7割以上が人間族で、学問が周辺より発展している国だ。紋章は赤と青の市松模様エシクテと9分の1方形の白い正方形で、そのなかに太陽が描かれたものだ。

 何年か前にその王家にグラスウォールの姫君が政略結婚として来国して以来、アルステッド王国とグラスウォール王国は友好関係にあるといわれている。


 が、今もその友好関係が続いているかどうかは不明という話があるらしい。

 というのも。

 今から約20年ほど前、グラスウォール王国で王族が一人残らず暗殺されたというとても悲惨な事件があったというのだ。被害は王族だけにとどまらず城で働いていた侍従やメイド、さらには近衛騎士も数十人ほど亡くなったとか。起こしたその犯人は今現在もなお、行方が全く分からないとのこと。

 そしてその次の日にはまったく新しい王が即位したという。その新王は先王と違って残虐で、その心には慈悲の欠片も見られないそうな。噂ではこの王がこれまでの王族を殺したのではないか―――といわれている。





 ただ、どれもこれも国境門に近いストック村で流れるたくさんの情報のうちの一つにしか過ぎない。その全てが噂のうちにすぎず、グラスウォール王国で起きた殺人事件の情報は昔に起こった話だから、根がつき葉がついて作り替えたところもあるだろう。

 とはいえ間違いなく今のレイラたちには関係のない話だ。耳にはしていても本当かどうかとは調べたこともない。


 ――――少なくともこの時は、の話だが。

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