8話

 ―――玄関の扉を開けてみると。



「やっほ~!」

 にっこり笑う小さい頃からの親友・ジェシカと、

「…………………よぉ」

 顔を少し赤らめた隣の家の幼馴染み・ディックがそこに立っていた。

 それぞれの違う反応に少し苦笑気味になりながら、レイラは家のなかへと二人を招き入れる。

 もちろん二人が家のなかに入ってくることはレイラのなかで想定済みだ。そのつもりで二人ともこの家に来ているのだろうから。


「はいはい、入るんでしょ?」

「もっちろん! おっ邪魔っしま~っす!」

 元気よく頷いたジェシカは靴を脱ぐとすぐにずかずかと足音を響かせながらなかに入っていく。そしてその数秒後には。

 スカイの嬉しそうな鳴き声とともに、

「あははっくすぐったいってば~♪」

 彼女の屈託のない笑い声がすぐに聞こえてきた。



「………なんであんなに元気なんだか」

 まだ玄関先にいるディックが少し不機嫌そうな顔でため息をつく。そんな彼の態度に、

「あ、あははは……」

 レイラは苦笑を返すしか他にすべはなかったのだった。





            *  *  *





 ここで3人についてザッと紹介しよう。

 レイラの親友であるジェシカは名をジェシカ・フローリアといって、茶色の髪と同じ色の猫の耳と尻尾を持つ獣人族の娘だ。瞳の色は琥珀アンバーのような深い黄色をしている。

 性格は明るく天真爛漫、いつもにこやかに笑って見る人を元気にさせるムードメーカーだ。それから猫がとても大好きで、道で見かけると途端に自身も子猫のようにじゃれついて遊びはじめるほど。

 時折意地悪なことも言ってくるがそれは彼女なりの精一杯の愛情表現、とも言えなくない。



 対するディックは名をディルバート・メリッサといい、この村では数少ないエルフ族の青年だ。同世代たちいわくいつもクールで、かなりモテるとのこと。

 ――がしかしレイラ限定ですぐ顔が赤くなり、心にもないことを本人が気付かぬうちに言ってしまうことがあったりなかったり。所謂ツンデレと言うやつで、その割合はツンが五分・デレが五分といったところだろうか。

 髪は背中までまっすぐと長く、色は光に当てると煌めく銀色になって美しい。そして瞳は金緑石アレキサンドライトのように色が状況によって変化する少し稀有な青年だ。

 というのもいつもは明るく濃い緑だが、なぜかレイラと危ないことに巻き込まれた時限定で暴走すると血のようなあかに変化するようで。

 どうして瞳の色が変わるのかは、本人でさえもさっぱりわからないらしい。



 ちなみに。

 レイラは本名をレイリアンヌ・ウィルヘルム=ステイシーという。

 彼女もまた性格上は明るく、他者ともすぐにコミュニケーションを取ることのできる可愛らしい子だ。自ら動く行動力もしっかりとした判断力も持っている。

 しかし唯一苦手なのが暗いところや怖いところなど光が届かない場所なのだとか。小さい頃に暗い森で迷子になって以来、それだけはだめになってしまったらしい。


 夕日のような赤みがかった金色の髪は腰の近くまであり、ちょこっとふわふわでくるくると渦を巻いてネコ毛だ。瞳はマリンブルーのような深い青色。仕事で家にいない父親が言うには、その瞳は彼女の母親にとてもそっくりなのだそうな。





 そしてスカイだが―――彼女は滅多に会うことの出来ない山翼猫リュンクスという幻獣の一種である。

 通常なら斑点はんてんのような毛の模様を持つが、時たまに変異種で雪のように白い毛並みを持つモノがいるらしく。その場合は白翼猫ブランリュンクスという希少種になるらしい。

 翼はもともとあってその羽はとても柔らかいとのこと。レイラが調べた本や実際に触ってみた結果、気持ちよすぎてすぐ骨抜きになった。以来、たまにスカイから翼を借りてはそれで昼寝をしていたりいなかったり。

 その気持ち良さは猫好きのジェシカも数少ないお気に入りなのである。

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