一章 夢と嵐の前の静けさ

4話

            *   *   *






 パチッ・・・と少女―――レイラは目を覚ました。まだ眠気のある重いまぶたを擦り、窓の外から入ってきた光に瞳を歪ませる。

 外はもうすでに明るく、太陽はにこりと笑みを浮かべるように顔を出していて、窓からふわりとカーテンを揺らした風は柔らかくて気持ちがいい。とても清々しく、そしてよく晴れた天気のようだった。



 ゆっくりと身体を起こし、上にかかっていた掛け布団をきれいに畳むと彼女はベッドから立ち上がる。

 その際にシャラン・・・と首に架けていた小刀ナイフが小さく音をたてた。

 落として壊さないように金色の鎖で紐通しているそれはシンプルな装飾だが、つかの真ん中に大きく赤い宝石がはめ込まれている。父がいうには母親がずっともっていたもので、レイラが生まれた日にお守りとして母親がプレゼントしたとのこと。

 小さい頃に母親をなくしたのでレイラ自身は覚えていないが、それでも愛されている証には違いないと、大切に所持しているのだ。

 レイラは一度だけ鎖を指で弾いて音を鳴らす。鈴のように軽やかな音が、室内に小さく響き渡った。



 

 と、その時。ベッドの側で寝ていた猫の耳がピクリと音に反応する。同時にモゾモゾとベッドよりも大きい身体を動かし、大きなあくびが一つ聞こえてきた。

 その名をスカイという猫は閉じていた金色の瞳をレイラに向けると、ゴロゴロと喉を鳴らして彼女の身体に顔を擦り寄せ始める。その度に小さく畳まれた背中の白い翼がふわりとレイラの頬を掠めた。

 スカイの頭を少しだけ撫でたあと、レイラはさっそく動き出した。

 服をしまってある棚へと歩いていってその中から今日の服を出してすぐに着替え始める。それと並行してさっきまで着ていた袖の長いパジャマは棚の近くの籠へと全て放り込んだ。あとで洗濯室に持って行って今日のうちに洗う予定だからである。


 スカイの方も、朝の日課である身だしなみのためにさっそく毛繕いを始めた。

 舌と前足を上手く使って、顔回りの毛を念入りに整えていく。前足を使って身体の毛並みをきれいに揃えるのだ。もちろん背中の翼も同じようにして器用に整えていく。

 多少の毛は口に入るだろうが、そんなもので気に病む必要はない。あまりにも身体のなかに毛が入れば気持ち悪くなることも何度かあるが、今はまだ大丈夫である。



 ―――そうして念入りに身体の毛という毛を整えることわずか数分程度。ようやくキレイにできたスカイは最後に前足を整えると、尾を揺らしながらレイラの準備を待つのであった。









 服が入った洗濯かごを洗濯室に持っていったあと。ある程度洗濯の準備を終えてキッチンにたどり着いたレイラは、すぐさま簡単な準備を始めた。

 昨日のうちに準備をしていた水入りポットをかまどにかけて火をつけ、沸騰するまでの間にいつものカップとココアレートの入った入れ物を用意する。砂糖の用意があるのは苦いココアレートに甘みを追加するためである。

 ちなみにココアレートというのはここよりさらに南にある国で採ることのできるフルーツの一種らしい。使われるのはなかの種子だけで、長い時間をかけて焙煎して燻したあと粉末にしたり他の甘味と一緒に混ぜてお菓子にしたりして使用するのだそうな。お菓子となったココアレートはショコラレートと名称が変わり、巷ではとても美味しいと評判とのこと。


 いつかは食べてみたいものだと考えながらも、沸騰したお湯をカップに入れ終わるとなかのココアレートや砂糖が溶け切るまでかき混ぜる。それが終わればいよいよ次は朝食の準備だ。

 コーム麦のパンを一枚切って網で焼き、程よいコゲを両面につけると網から下ろしてすぐ皿の上へ。そのあと別のフライパンで焼いていた半熟の目玉焼きをパンの上に気をつけて乗せた。今日は目玉焼きトーストを食べる予定である。

 もちろんスカイのご飯の準備をしておくことも忘れない。今日の彼女スカイの朝食は新鮮な野菜と川魚を干したもの。どちらもスカイの好物なので、今日もきっと喜ぶことだろう。



 ところで肝心のスカイはというと・・・・庭に続く窓から外に出て、青々とした芝生の上で丸くなっていた。彼女の雪のように真っ白で綺麗な毛並みが、太陽の光にキラキラと反射していて少し眩しい。気持ちのいい日になりそうだ。眠っているようだからあとでご飯は食べるだろう。

 そんなスカイを見たレイラはにこりと微笑み、用意した朝食を持ってくると椅子に座って食べ始めた。

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