第一部

序章

3話

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 ―――眼の前にある剣を見て、その乙女は一粒の涙を流した。

 




 ―――『………わたくしは   、貴方をいつまでもいつまでも………愛しております。出会ってくれて、愛してくれて……ありがとう、愛しい人よ…………』

 と。



 囁くように言葉を紡ぐと彼女は大きく翼を広げて蒼空へと舞い上がる。小さなつむじ風がその場に巻き起こり、あたりの砂を散らした。

 頬を流れ落ちた涙は空中に散り、小さな光となって消えていく。荒れ果て乾いた地面に落ちることなく、夜空に消えていく流れ星のように。

 あとには目を閉じ息絶えた横たわる黒いドラゴンの姿と―――月の光に照らされて輝く黄金の杖が一つ、砂の上に刺さってるだけであった。



 昇っていく彼女の翼から抜け落ちた真紅の羽が眠る黒い竜の頭に一つ、舞い落ちてきた。

 それはさながら穏やかな永久とわの眠りへといざなう竜へのささやかな贈り物のようであった。






 その日は雲1つない、キラキラと輝く満月の明るい夜だった。








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