偶然のさだめ
@stdnt
第1話
一人の老人が、石を選別していた。選別された石には名前が書いてあり、煮えたぎる大釜の中に投げ込まれている。そして投げ込まれたその日が、その名前の命日となっていた。
老人はまたひとつ、小石を拾い上げようとしていた。その小石に書かれていた名前は「あぶ」。
高級カントリークラブの自動ドアの前で、でっぷりと太った男が盛大なげっぷをはいていた。二時間の運動の後、シャワーを浴びて、二センチもある分厚いステーキをたいらげた後だ。満足げにお腹をさすりながら、自動ドアの前に立った。
その時だ。自動ドアの少し手前の床に「あぶ」がもがいているのが見えた。フカフカの高級な絨毯の毛に絡まって動けないようだ。「あぶ」は必死に手足を動かしている。
男は、ステーキを食べた時と同じくらい残忍な気持ちになって、「あぶ」を踏みつぶそうとした。
としたかったが、少しつんのめってしまった。高級な絨毯の毛はフカフカすぎた。
傾きかけた上半身に、高級で重厚な自動ドアの扉が閉まりかかってきている。
「あっ、間違えちゃった」
老人は小石の隣にあったでっぷりとした石を大釜の中に投げ込んでいた。
偶然のさだめ @stdnt
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