第27話 そして、真相に辿り着く。
リシェン達は三十分掛けて封緘領域から戻って来た。
タンミョウは封緘領域の奥に移動した部屋の牢の中に打ち込んで来た。
ただそうなると、帰るための脚がなくなるので帰還は徒歩になってしまった。
「あそこであれば神の力は封じられる。 それに牢にはスキルや素の身体能力も封じるよう魔術式が組んである」
念のため、キュリスが逃亡阻止の魔術を何重にも重ね掛けしておいたので心配ないと。
あと、神は餓死しないので食事を運ぶ必要もない。
「グ、グロい……あれは――グロ過ぎるっ!!!!」
封緘領域から戻ってくるまでにリシェンは洞窟の中で何度もえづく。
司祭に至っては何度も吐いた。
封緘領域の奥で行われた行為は、封緘領域内で感じていた不快と怖気が吹き飛ぶほどの衝撃だった。
封緘領域では神の力は封じられるが、人が使うスキルは普通に使える。
そのスキルを使用したキュリスのタンミョウに対する尋問が、もはや拷問レベルだった。
いや、それよりも酷い。
キュリスは生きたままタンミョウの頭蓋を縦に切り開き、脳を摘出して直接情報を引き出したのだ。
キレイに割れた頭蓋骨から露出した脳には脊髄やら血管が繋がって脈動している。
だだでさえタンミョウの姿は一般人には受け入れがたい姿なのに、そんなタンミョウの悍ましい状態を目撃したのだ。
リシェンは魔獣の解体経験があるから何とか吐かずに済んでいるが、そんなものを見て気分が良いわけがない。
それはリシェンと同じようにタンミョウの尋問に立ち会った司祭も同じだ。
ケインと尋問官はそんなリシェンと司祭を苦笑いで見ていた。
「あれは何度見ても慣れないものだ」
「私も、新人の頃はキュリス様のあれで盛大に吐いたものです……」
尋問官は目を細め、どこか遠くを見ながら言う。
「リシェン、一つ言っておくがあんな事そうそうにやらないぞ! 緊急の場合や重要な情報を得る必要がある時だけだ!」
何故か必死で弁明するキュリス。
そんな目にあったタンミョウだが、それでも一応は生きている。
脳から直接情報を取り出された後は再び脳を戻された。
その後、タンミョウは真っ白に燃え尽きて、キュリスの話では正気を取り戻すのに数日は掛かるらしい。
とりあえず、タンミョウは尋問の後、封緘領域に造られた牢の中に入れられている。
☆
後にグリーデンに化けていた財物の神タンミョウの告白と尋問で得た情報ととグリーデン長官の証言を元に検証が開始される。
――以下、犯人である財物の神タンミョウの告白。
全てのキッカケは魔国の魔王とミリタリア王国の国王が、妖精族の国・ヘリッジ皇国を征服するために互いに手を組み、同盟を結んだ事から始まった。
魔王とミリタリア国王は侵略の一環として情報収集や策謀が得意な財物の神タンミョウを財宝で買収――それに成功。
タンミョウは即座に行動に移す。
ヘリッジ皇国内部に潜り込み、諜報と工作活動を開始した。
まず、軍部中枢にいるスプリガンのグリーデンと入れ替わり、本物のグリーデンは変化の術と暗示による洗脳で別人に仕立て上げ、優秀な人物として引き抜いた
情報操作を行い、一方でヘリッジ皇国の国内を少しずつ混乱させてゆく。.
その中で最も大きな混乱は、皇家の後継者争いであろう。
後継者争いでは皇家の二人いる後継者に近づき、兄を言葉巧みに唆して出奔という形で国外に追い出した。
追い出した後、旅の道中で兄に魔獣をけしかけ襲わせたが、途中で行方を見失う。
軍務副長官に行方を調べさせていたら、半年後――とある村にて事故死した事を知る。
もう一人の弟の方は、病に見せかけての暗殺に成功。
ヘリッジ皇国の不幸は続く。
国皇が多発する国内外の問題から心労による衰弱で体を壊し、やがて
国皇不在の混乱の最中、その機に乗じて魔国とミリタリア王国に領土を削り取られてしまう。
魔国とミリタリア王国の思惑は順調に進んだかに思えた。
そこからヘリッジ皇国の巻き返しが始まる。
ヘリッジ皇国の王妃であったミルラルーシュ・ケーラが王位に着くと、彼女は短期間で国を立て直してみせた。
ミリタリアの国王が欲を出してサンドリオン帝国にも手を出したのもいけなかった。
ミリタリア国王はサンドリオンの領土を奪う策として、サンドリオン帝国の皇帝と皇太子が抱いていた欲を利用した。
皇帝が欲していたのは自国に居ない騎甲の製造ができる騎工師――それも名工を招致する事。
それにより軍事力の増強・強化を行い、へリッジ皇国を侵略する――というものだった。
これには半分成功、半分失敗する。
タンミョウがヘリッジ皇国で騎甲の名工であるボロを攫う。
本来ならボロを洗脳し、騎甲にわざと欠点や弱点を作って量産させるつもりだった。
戦時にはそれによりミリタリアが有利に働くようにと。
だが,ボロを攫われたレジが早々に乗り込んで来て、帝国の主戦力である騎甲鎧をほぼ壊滅して彼を取り返されてしまった。
一方、皇太子が欲してやまないモノ――それは、サンドリオン帝国一帯をテリトリーとし、また、守護していた
皇太子は不遜にもその女神ルーキスを自分のモノとしたかった。
その事をミリタリア国王は知っていたのだ。
ミリタリア国王は早速、タンミョウに協力を要請。
追加で財貨を支払う事でタンミョウの協力を得て女神ルーキスを捕らえる事に成功する。
そして――サンドリオン帝国に他国から使者が集まる日にタンミョウを通じて妖精の神々に知らせた。
女神ルーキスは妖精族や精霊、それに関係する神々の支柱であった三柱女神を邪神との戦いで失った後、彼等をまとめる長の役割も担っていた。
当然の如く、神々は激怒し、皇太子を誅すべくサンドリオン帝国に乗り込んだ。
そしてその日、各国の重要人物が集まる目の前で、神々の逆鱗に触れた皇太子は生きたまま地獄に落とされたという。
この出来事が切っ掛けでサンドリオン帝国の権威は失墜し、帝国の凋落が始まった。
その後、ミリタリア国王はサンドリオン帝国の領土の大部分を取り込むことに成功するのだが、ここで大きな問題が起こる。
サンドリオンの皇太子と同じく、魔王も以前から女神ルーキスを欲していた。
それを邪魔したミリタリア国王は魔国との間に軋轢を生じさせてしまう。
結果、同盟は崩壊。
魔国とミリタリアは長い間睨み合いが続いた。
だが邪神の復活により、節目が変わったと判断した双方は、お互いタンミョウを利用しながら別々にヘリッジ皇国の攻略に乗り出した。
魔王側はとある人物達の暗殺依頼をタンミョウに出した。
近年、魔国国内ではサードアイ《三つ眼族》の過剰なまでの保護政策の副作用で少子高齢化が進み、急速に人口が減少していた。
特にサードアイの能力維持の目的で、多種族との婚姻を禁止した事が強く影響していた。
その結果、同種族だけでの近親婚が進み、障害児などの出産率が上昇。
新生児の死亡率も上昇して健常児の生まれる数はどんどん減少していった。
その上、サードアイの寿命は魔族の中では短命で人間とほぼ同じ百歳くらい。
サードアイの高齢化が進んで結晶に回路を刻むことができる職人も少なくなると、若者への技術継承が困難になってしまった。
国外に住んでるサードアイを招致しようにもサードアイは国内に居る者が全て。
何故なら魔王が時間を掛けてサードアイを魔国に強制収容を行い、逆らう者は皆殺しにした。
仮に生き残りが居たとしてもその数は少ないであろう。
それらが理由となって結晶核の品質は年々低下し、ついには性能の低い低品質の物しか製造できなくなってしまった。
苦肉の策として一番グレードの低い結晶核に出力制限を設けてグレードを分けさせた。
そして回路に騎甲をこちらの好きなタイミングで停止させる細工を施す。
例え妖精族であろうと気付かれる可能性は極めて低い。
これで当面は誤魔化せるだろう。
しかし、心配もある。
それは魔国とは逆に、へリッジ皇国では妖精族の中では技術と経験の蓄積により、結晶核を作れる者が騎甲師を中心に徐々に増えてゆき、国内限定だが流通も可能となっていた。
それに危機感を覚えた魔王は、へリッジ皇国で回路を作れる騎甲師や職人達の暗殺を目論んだ。
魔国にしか作れなければ利益も維持され、魔国の存在価値は高まる。
魔王はへリッジ皇国に潜り込んだタンミョウにミリタリアがサンドリオンの時と同様に追加報酬を支払い、結晶核が作れる技術者の暗殺を依頼。
最後の詰めは失敗したが、目論見は概ね成功した。
これがヘリッジ皇国内で起きた連続殺人事件の真相である。
幻界夢想譚 真田 貴弘 @soresto
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