第2話 動機

 俺が捕まった理由を話すまえに、まずは自己紹介をしよう。俺の名前は津田タカヒロ。本名は吉原誠。

 吉原誠より津田タカヒロの方が格好いいから、津田タカヒロを名乗っている。深い意味はない。ただそう名乗りたいだけ。吉原と呼ばれると吐き気がする。だから俺はどの書類にも津田タカヒロと記入する。周りは不思議な顔をするが関係ない。市役所で住民票を発行しようとして津田を名乗ったが、そんな住人はこの街にはいないと断られた。ここにいるのに。目の前にいるのに。これだから役所は融通が利かない。

 話を戻そう。俺が捕まった理由だ。そもそも俺が世の中で憎むべきは性犯罪。その中でも最も憎むべきは痴漢行為だ。毎日のようにどこかの電車で起きている、この行為は許せない。強姦と違い気軽な気持ちで犯行に及ぶ者が多いからだ。奴等は自分を正当化し、自分の欲望を満たす為に電車に乗る。奴等の欲望の為に女子中学生や高校生が汚される行為は許せない。何の汚れもない美しく清楚な女の子が恐怖におののき汚される姿は想像に耐え難い。許せない。

 汚ならしいオヤジがその汚い手で、若い女の子を汚す。おぞましい卑劣な犯罪行為。許せない。新しい朝を迎え今日と言う日を希望を胸に家を出て、希望を絶望に変える行為が許せない。

 そういった犯罪が日々行われていると想像するだけで胸が痛み、吐き気すら覚える。夜も眠れない。何とかこの痴漢と言う憎むべき犯罪のせいで女の子たちが涙を流さないようにする事はできないものか。

 『お前が行動しろ!』どこかから聞こえてきた。そう俺が行動しなければいけない。そう思った。

 それから俺は行動する事にした。俺は毎日5時に起きて6時には電車に乗りながら卑劣な行為、つまり痴漢をしてる奴がいないか確認する。要はパトロールだ。俺の最寄り駅の香里園から終点の淀屋橋まで、そして大阪メトロに乗り換えて心斎橋までを往復して目を光らせる。犯罪を未然に防ぐ為だ。毎日回りに目をひからせて電車に乗る。顔を動かしては犯罪者に勘づかれる。だから目だけを動かして周囲を警戒する。怪しい奴や汚いオヤジがいたら、そいつの後ろにピタリと着いて離れない。そいつを睨みながら、淀屋橋まで約30分。また心斎橋まで血眼になりながらの約20分間。心斎橋に着いたら、また香里園までパトロールをしながら戻る。それを10時まで繰り返す。しかし残念なか犯罪者を捕まえる事はできなかった。何故か俺の周りだけ人が少なくなるのだ。不思議だった。

 毎朝パトロールを繰り返し、俺はついに眼球疲労に陥った。眼が疲れてたまらない。

 なのに痴漢行為は減らない。何故か。何故なのか。何故なのだろうか。

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吉原 芯平 @cbgb

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