第200頁目 大は小にも怒られる?
家を作るぞ! なんだか懐かしい!
俺の前に並ぶ様々な木材、石材、枯れ草に金属的な何か。此処はホームセンター的な場所らしい。因みに卵はもうムステタに持って貰ってる。そして、ノックスは気付けば何処かに行っていた。相変わらず自由な奴だ。不変種が不用意に出歩いて大丈夫なのか?
「素材の料金はウチの方で出すから余程の贅沢品でなければ好きに使っていいわよ。」
「ほぉー、そりゃ助かる。」
「吃驚よ。竜人種の巣に天井が無いなんて。」
「いや、必ずって訳じゃないんだぜ? 俺が作ってたのはそういうのが多かったんだよ。」
「雨の時はどうするの?」
「気にしないか、なんかを被せる。」
「げ、原始的ね。とても堪えられそうにないわ。」
慣れてから屋根のある家に行った時に感動出来るって意味ではオススメだ。
「色々あるな。」
「そうね。」
「払って頂けるのですから、無駄遣いはしないようにしないで下さいね?」
「わかってるって。じゃあ、俺が使うのは――。」
*****
「何故こんな石ばかりなのよ?」
「これが俺のやり方なんだよ。」
「変わってるわねぇ。」
「そうか?」
「……そういう巣作りをする人もいるのは知ってる。実際に見るのは初めてだけれど。」
「前例があるなら間違ってもいないという事ですね。」
「朗報だな、アメリ。んでえーっと? まずは掘らなきゃだよな?」
「そうね。変易魔法だから普通はかなり疲れるのだけれど、竜人種ならそんな事ないわよね。」
「まぁな。」
「無理しては駄目ですよ?」
「しねえよ。」
アニマを伸ばして穴の奥に配置する。顕現するのは
「いや、これだとアメリが怪我するかも知れねえな。悪いけど、鞄を預かって貰えないか?」
「いいわよ。」
鞄をムステタに預けて改めてアニマを伸ばす。やり方はこう。変易魔法で穴を掘り、出てきた土で入り口から壁を伸ばして空間を作る。それを建材で補強して完成だ。しかし、土を顕現した力で動かすなんて初めてだ。上手く出来るだろうか。
「ほっ。」
まずは内側のアニマに力を顕現して土を掻き出す。ズモモモッと溢れ出る土。やりすぎて正面の自分に掛からないよう気をつける。解れた土は圧縮されてくっついてた時よりも大きく体積を増していった。だから、それを時々横に退かしては掘り進める。
「ソーゴさん。あまり広くしても使いきれませんよ?」
「だな。」
此処に永住する気は無い。だから大家族を養えるような大きい家は必要無いんだ。でも、ある程度の快適さは求めたい。しかし、ノウハウは無いんだよな。であればどうするか。頭に浮かぶのは長方体。アニマをそんな形に拡げる。勿論入り口が出来る予定の場所辺りから俺と
……俺はいつの間にかアニマをこんな自在に操れる様になってたのか。
内側がアニマで満たされた立方体が出来上がったら今度はそれを囲む様な立方体を作る。外側の立方体は中が空洞だ。そして、内側の立方体は外側に向けた力を。外側の立方体は内側に向けた力を顕現する。すると出来上がっていく土の壁。力は上には向けてない。だから天井は出来ないが、一瞬で土壁が出来てしまうというのは壮観である。
「綺麗ね。顕現も安定してて凄く丁寧だわ。」
「そうか? 嬉しいね。」
まさか褒められるとは思ってなかったから少し照れてしまう。
家ってのに必要なのは柱だ。ゲームとかだと忘れがちだが、地震大国出身としては壁や天井が崩れる可能性ってのをどうしても忘れる事が出来なかった。だからこそ崩れない物を考えた結果……浮かんだのは石垣。江戸時代とかそれ以前より作られた石垣は未だに日本各地にあった。よくわかんないけど、それくらい丈夫って事なら壁を全部石垣にして天井は全部木の板で押さえればいいのでは? という我ながら色々考えるのを放棄した方法を実行する。
しかし……。
「うーん。」
「どうしたんです?」
「横の壁に石をこう、ズラーッと並べたいんだけど、一定の力を顕現したら石によって加速度が違いすぎて大変な事になりそうだなって。」
「土と違って大きさにバラつきがありますからね。」
「それならそれ以上の力で押さえればいいのではなくて?」
「いや、ちょっとそれは不安なんだよな。」
力の顕現というのは数値化されてなければ視覚的にも分かり難い。外側の力が足りなければ石が勢いよく四散し、怪我人が出る可能性がある。かといって極端に力の差を付けたら内側に押し戻される。
「あの。」
「ん? どうした?」
マレフィムなら何か良い方法が浮かびそうだ。
「壁はもうこの位置で確定なのでしょうか。」
「壁……はそうだな。その予定だけど。」
少し横から見ると壁から突き出た食パン見たいな見た目だ。天井をそれっぽくしたら尚更そう見えるだろうな。家の広さは結構ある。あ、待てよ? この天井が無い部分は庭にしたらいいんじゃねえかな。日光がふんだんに入る場所では無いから植物を生やしたりは出来ないが、物を置ける空間というのは外にも欲しい。そして、天井を無理に作らなくていいってのは楽だ。
「でしたら、家具を揃えに行っても宜しいでしょうか。」
「家具? 家具か……。」
予想外の提案だった。でも、確かに必要だよな。家の中は決して狭く開けていない。数人までなら客を呼んでも問題ない広さだと思う。でも、それは家具が全く置かれていないからである。
……うん。必要だな、家具。
「じゃあ頼もうかな。ムステタ、悪いんだけどアメリに連れて行ってくれるか? 何かあっても困るし。」
「いいわよ。でも、貴方はいいの?」
「俺は大丈夫だよ。」
「いえ、巣作りの方よ。」
「あー……まぁ、なんとかする。一応全く知らないって訳じゃないからな。」
「そう。わかったわ。」
まぁ、見てなっての。俺だって本気出せばなぁ!
*****
「出来た!」
「出来てないです!」
完成の喜びに満ちた叫びを即座に否定されてしまう俺。
「なんですかコレは!」
「家だよ。」
「家と呼べますか!? 壁に無数の石がめり込んでる穴ですよ穴!」
「そりゃお前言い方の問題だろ。」
俺が作った家はマレフィムの言葉で全て説明出来る物だった。壁の中に四角い空洞がある。そして、壁に無数の石がめり込んでいる。正にその通りだ。
「窓は!? 厠は!? 調理場は!? 貴方は何を作ると言っていました!?」
「家。」
「これは家じゃない! 檻です!」
「……。」
「信用して離れた私が馬鹿でした! ムステタさん! 申し訳無いのですが手を加えるのを手伝って頂け……ムステタさん?」
振り向くとムステタはクツクツと笑みを噛み殺しながらお腹を抱えていた。
「あははは! 妖精族に竜人種が叱られてる! こんな光景を見るなんて!」
「……ッ……!」
笑われた事で少し恥ずかしくなったのか顔を真赤にして俺を睨みつけるマレフィム。
……俺は悪くなくね?
「す、すみません。はしたない所をお見せ致しました。」
「い、いえ。いいのよ。凄く貴重な光景を見せて頂いたわ。」
「ソーゴさん! 何故貴方はキョトンとしていられるのですか!」
「やめて! これ以上竜人種が妖精族に巣作りで怒鳴られている所を見たらお腹が捩じ切れてしまうわ!」
「そんなおかしいか?」
「……珍しくはあるでしょうね。」
「ふぅ。でも、本当に巣としては足りない物が多すぎるわね。基礎部分が完成したって意味なら辛うじて理解出来るかもしれないけれど、完成には程遠いわ。それに、まさかこんなに大きい巣を作るとも思ってなかったの。部屋も一つだし。」
部屋! その概念をすっかり忘れていた。窓もトイレも調理場もな。中身が真っ暗でも気にせず作業してたが、確かに普通は明かりが必要だわ。ちょっと色々抜けてたかもしれない。
「流石に勝手が違うのかもしれないわね。今晩はウチに泊まりなさい。」
「宜しいのですか?」
「えぇ。さっきのやり取りを見て警戒心なんか吹き飛んでしまったわ。」
「……さっきのでか?」
「そうよ。まさか特に
「”俺は何もしねえよ”。これでいいか?」
「ふふっ、そうね。信じるわ。」
笑っていなされた気もするが、自宅に招待してくれるくらいなら多分信じてくれてるんだろう。日はもう遅い。大きな穴の中にある街には既に闇が這い寄っていて、街のあちこちに揺れる光が灯り始めていた。これから家を改修するのは俺だけなら問題ないが、騒音を考えるとよした方がいいだろう。ってかやっぱり警戒はされていたのか。そんなに竜人種や不変種って恐ろしいのかね。
「それじゃ付いてきて。」
「おう。」
「はぁ……ソーゴさんは何故そこまで考えなしなのです? 他人様に迷惑を掛けて申し訳ないとは思わないのですか?」
「そういう真面目に心にくる罵倒はやめろよ……。ってそうだアメリ。買ってきた家具、妙に少なくないか?」
今確認出来ているのはムステタが持っている大きめの布包一つのみ。そこに全ての家具が入っているとはとても思えない。
「大きい物は家がある程度出来上がってから貴方に運んで貰う予定だったみたいよ。」
「取り敢えずは品揃えのチェックと最低限の買い物にしようと思いまして。」
「なんだよそれぇ。結局は俺頼みかよ。」
「ソーゴさんとノックスさんですね。……そう言えば彼は本当に何処へ行ったのです?」
「知らん。」
「全く……何方も自由過ぎはしませんか?」
「貴方は苦労人ね。」
「わかって下さいますか……。」
馬鹿言え。お前が暴走してる時は俺がフォローしてんだろうが。それに角狼族の村ではノックスと似たような事やってたろ。
「余り夜鳴族に好き勝手歩かれると皆萎縮してしまいそうだから困るのだけれどね。」
「トラブルも引き寄せそうですしね。」
「彼奴ならどうにかして逃げそうだけどな。」
「何をわかった気で……。」
ま、まぁ、そりゃそうなんだけどさ。そんな恨み節で言わんでも……。
「此処よ。」
話を区切る様に立ち止まるムステタ。なんと言うか……異様な柄の扉だな。木製なんだが……白くて丸い何かが所狭しと描かれている。なんだコレ。
「あ、言うのを忘れてたけれど、同居人がいるのよ。優しい人だから大丈夫だと思うけれど、竜人種だから流石に驚くかもしれないわね。……ちょっと説明してくるから待っててくれる?」
そう言い残し一人家の中へ入るムステタ。
「同居人ですか……これ以上迷惑を掛ける様な事はしないで下さいね?」
「大丈夫だって。」
「はぁ……しかし、ミィさんはソーゴさんに預けるべきでした。」
「あぁ、確かに。ムステタに渡したままだったな。もしキュヴィティの仲間が狙って――。」
「そうでなく、もっとマシな家が出来ていただろうなという話です。」
「……。」
「ムステタさんは礼儀正しく、とても過激な事をする様な人とは思えませんでしたよ。」
「そうやって気軽に信じた結果を覚えてるだろ?」
「(その考えにはボクも賛成だね。)」
「のわぁ!?」
俺の耳に囁く声がゾワリと広がり思わず仰け反ってしまう。
「そこまで大きく反応してくれると嬉しいね。」
「ノックス!? 気持ち悪い事すんなよ!」
「貴方、今迄いったい何処に――。」
「どうしたの!?」
勢いよくドアが開きムステタが此方の様子を
ムステタの奥には一人の嘴獣人種が立っていた。しかし、両翼が無く、右足は棒で代用している。そんな姿を見てノックスが一言放った。
「なんだ、カタワがいるじゃないか。」
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