第47頁目 アタシ、許さないからね?
――今日、アタシの友達が消えた。
パパは今、星欠石で高鷲族の族長パパド様とダークエルフの族長スメラ様に連絡を取り合いアタシの友達の行方を探している。
「パパド! 見つかったか!?」
「ぃーや……全く。」
「……ったくガキの癖に無駄に責任感じやがって……!」
「子供だからでしょ。子供だから自分が子供だって知らないんだよ……。」
パパド様。彼女は、女性でありながら若くして高鷲族の族長を務めている。天真爛漫な言動でありながら、責任を全て請け負う懐の深さであの奔放な高鷲族を纏めているらしい。アタシは直接会った事が無い……はず。
「大人である私達が彼の不安を拭い切れてやれなかったのだ。それは私達の不徳であろう。」
「……ックソ!」
そして、スメラ様。噂に聞いていたダークエルフ族の族長らしい。でも、いつの間にパパは星欠石まで使って通話をする程交友を拡げたんだろう……。
「族長! 手掛かりが見つかりました!」
「「何ッ!?」」
石の向こうの報告に勢い良く反応したのはパパとスメラ様。
「あ、いえ……例の竜人種の事ではなく、クテューリアとヴィチチについてです。」
「……へぇ。何?」
少しピリピリとした雰囲気で報告を促したのはパパドだった。彼女もクロロが急にいなくなった事に納得出来ていないんだと思う。
「ロアルド家は全員魚が好物との事で、オクルスにて頻繁に魚の干物を購入していたとの事ですが、その干物を販売していた商人がイデ派という情報が入りました。」
「……なんだと? オクルスは水産の保存食が名産だ。俺のとこでも出稼ぎついでに買ってくる奴がいる。それが事実ならこっちでも厳密に調査しねえといけなくなるな。」
アタシはそのお土産で貰える魚の干物が大好きなの。……クロロも……それを聞いて魚を獲ってくれるようになったって弟達から聞いたわ。
「報告はそれだけなの?」
「いえ! 例の手長猿族との戦いと同時期にその店は閉店したらしく、店主等の行方もわからないとの事です。」
「それは怪しすぎるね。」
「イデ派だろうとシグ派だろうと、私達の平穏を邪魔するのであれば容赦はしない。」
ダークエルフはとても保守的な種族って聞いた事がある。でも、彼等は開放的な高鷲族と共存の道を選んでいた。外交向けに高鷲族を置く事だけが目的と聞いたけど、ダークエルフなんて恐ろしい部族に手を出す部族なんてそうそういない。キュヴィティ達はそんな相手を怒らせてしまったのだ。いや、それとも、ダークエルフと事を構えても揺るがない程の思惑があるとか……?
「とりあえずその件についてはわかった。んでクロロちゃんの手掛かりは?」
「それは……まだ……。」
「……そう……いいよ。さがって。」
「はい!」
黙りこむ族長達。パパド様やスメラ様のやるせない思いが伝わってくる。
「知ってるだろうが……角狼族は鼻が利く。アイツは飛べねえから追えるはずだったんだ。だが、アイツは恐らく飛んで何処かに行った。手を貸したのは恐らく先生だろうが……何故ガキの無茶を止めようとしないんだ!」
「例のマレフィム……だっけ? 保護者だなんて自称してたけど、もう少し目を光らせとくんだったよ。」
「それだけじゃねえ。俺達は耳も利くんだ。クロロはよく、見えない何かと会話をしていた。最初は変な癖だと思っていたがアレはきっとそんなんじゃねえ。災竜だとバレる事を覚悟で医者にでも診せりゃよかったんだ。」
アタシも何度か見たことがある。まるで本当に誰かがいるみたいに、楽しそうに話をしていた。それは例えマレフィム先生の側でもやっていたし、マレフィム先生も特に気にしてはいなかった。
「彼はアストラルが歪んでいたのか?」
「そんなはずはねえ。少なくとも俺は近くにいて何か違和感を感じる事はなかった。強いて挙げる物があるとするなら、ガキらしくねえ大人びた言動くらいか……。」
「それでも素人の意見でしょ。本当にちゃんとした街の医師に診せるべきだったね。」
「……クソッ!」
「別にダロウちゃんが悪い訳じゃない。悪い人を作りたいならそれは大人達全員だよ。そして……特に悪いのは同胞の命を多く奪った。イデ派の奴等……クテューリア……ヴィチチ……。」
パパド様がこれ以上ない重々しい口調でその憎いのであろう者の名を呟く。
「部屋には書置きもあったのだろう。そこから手掛かりは何か掴めないのか。」
「次の行き先については特に書いていなかったが、虚石が置いてあった。」
「虚石ぃ? 中身は?」
「30万ダリルだ。」
「結構な額ではないか。」
30万ダリルなんて、こんな僻地じゃあまり見る機会が無い程の大金だ。アタシの村なんてお金自体そんなに流通してないし。
「こんだけ大金があるなら置いていかず、クロロに使ってやれば良かったのによ……。」
「でも、災竜だからね。必然的に行き先は北の方に絞られるんじゃない? まさか丘陵を越えて王国の方に行ったり、オクルスへ向かったりはしないでしょ。」
「だといいんだがよ……。」
パパはクロロを気に入っていたし、ワガイ様から白銀竜から受けた恩を忘れてはならないって言われてたのもあって、クロロがいなくなった事を凄く気にしている。
クロロ……なんで相談もせずに何処かに行っちゃったの……? 沢山人が死んじゃったのはクロロのせいじゃないじゃない。それとも、アタシが記憶を失くしてしまったから……? アタシに初めて出来た心の底から触れ合える友達だったのに……。なんで? なんでなの……?
急に瞼を潰されるような重みを感じてアタシは目を開けていられなくなる。その衝動のまま目を一度瞑り、目を開けようとすると塞き止められていた涙が溢れてきた。それと共に堪えきれない嗚咽が口から漏れ出ていく。
「……うっ…………ぐすっ…………クロロ……………………クロロォ……………………。」
そんなアタシの声にパパが気付いた。
「……わりぃ、話は一旦後にしていいか。」
「うん。メビヨンちゃん、クロロちゃんと仲良かったんでしょ? 仕方ないよね。捜索に関しては多分……時間が掛かると思う。今は焦らず確実に保護する方法を考えよう。」
「それがいいだろう。私達も少数ながら協力する。」
「あぁ……助かる。」
そう言って通話を止めてアタシにゆっくりと近付いてくるパパ。
「……メビヨン。アイツは別にお前のせいで居なくなった訳じゃねえ。手紙にもあったろ。必ず帰って来るって。帰って来るって事はアイツはちゃんとこの村を家だと思ってたんだ。」
「クロロはぁ……ひぐっ……ここに居ちゃ駄目だったの……?」
「そんな事ねえ。寧ろアイツはここに居るべきだったんだ。皆、災竜である事をものともせず、立派な大人になろうとしていたアイツを尊敬していた。お前もそうだろう。」
「……う゛ん……クロロは……凄かった……。」
事件のせいでクロロと過ごした記憶はそんなに無いけど……境遇はママから聞いた。弟達と変わらないくらいの大きさなのに彼は凄く苦労していて、森を出てもただ命を狙われるだけの存在なんだって。それなのに、話してみると明るいし物怖じしないし……なんでそんなに悩まずに生きられるんだろうって思った。でも、違うんだよね。アタシ達に気を使わせない為に、気付かせない為に振舞ってたって事なんだよね。じゃなきゃこの村から出て行ったりなんてしない……!
「クロロは……うっ……凄いから……出て行ったのかなぁ……。」
「まぁ……そうかもな。」
「もっと……ぐすっ……凄くなったら……帰って来る……?」
「だろうな。……だが、その前に俺が見つけて連れ帰ってきてやる。まずはメビヨンを泣かせた事を謝らせないとな。だろ?」
「……うん。……許さない……クロロ……許さないから……!」
パパの言葉に押されてか、徐々に怒りが燻り始めて来る。
……こっちは出来る限りクロロともっと仲良くなろうとしてたのに……クロロが気にしないよう消えた思い出を羨まないようにしてたのに……なんでアイツは勝手に考えてどっか行っちゃうの……!? 年下の癖に……! 年下の癖に……!!
アタシは怒りに任せて目を拭う。
「パパ……。」
「どうした。」
「もし、アタシが一人前になったらクロロを探しに行ってもいい?」
パパはアタシの言葉を聞いて少し驚いた顔をするが、すぐに先程の穏やかな顔に戻って静かに言葉を返した。
「いいぞ。でもな、二つ条件がある。」
「……条件?」
「あぁ。一つは俺が一人前と認めないと駄目だという事。」
「……わかった。もう一つは?」
「もう一つは……ステラ一族も探すって事だ。」
ステラ一族。それはアタシを生んでくれた両親と血の繋がった一族。アタシはまだ会うのが少し恐いけれど、今そんな素振りを見せたらパパが許してくれないかもしれない。アタシはとりあえず急いで返事をした。
「わかった。それを守れば探しに行ってもいいの?」
「男に二言はねえ。」
「アタシ、勉強頑張るわ。そして、あのヘラヘラした顔を見つけたら思いっきりぶっ叩いてやるんだから……!」
「ぶ、ぶっ叩く?」
アタシの決意の一言に気の抜けた声を出すパパ。きっとアタシがいきなりやる気を出したからビックリしたんだと思う。なんならこの書置きを顔に叩きつけてもいいかもね!
~~~~~
だろうさん、どみよんさん、めびよんさん、くろう、ころう、めろう。
それと、かくろうぞくのみなそん。
みじかいあいだでした、が、とてもおせわになりました。
このむらのいつもあたたたかくて、ごはんもいっぱいあって、とてもいごこちがよかったです。
だいすきですこのむらが。
なので、このむらにめいわくにかくたくありません。
おれはこのむらをでます。
いつかめいわくをかけないくらいりっぱになったら、おんへかえしにもどってきます。
ぜったいにかえってきます。
いもでおせわになりますた。
~~~~~
熱の篭った頭でこの文章を見ると、すぐにその熱が冷めてきてしまう。でも、さっきまで胸にぶら下がっていた哀しさはもう寂しさになっている。汚く、抜けた字や間違えた字でいっぱいの文章が掘られている薄汚れた木板。そんな拙い文字に反して、書いてある内容は子供らしくなく、まるでボケかけた老人が書いたような感じに見えてしまう。
クロロが立派になった時にこれを突きつけて恥をかかせるのが一番良さそうね!
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