重騎兵殺し
「こちらは、もう一つ餌を仕掛けた。中央に軽装備の槍兵を集め、敵に中央突破が容易だと思わせたのだ」
「ギュッヒン侯ともあろう人が、そんな初歩的な作戦に引っかかるでしょうか。中央に弱兵を置き、わざと突破させてから左右の部隊で敵を包囲して殲滅するなど、誰でも知っている作戦です。私でも知っている。それに、敵の背面に回り込む騎兵部隊がいないと完全な包囲は完成しません。インバードンが
我が意を得たりと、タルカ将軍はうれしそうに笑った。
「そのとおりだ、ザロフ君。物事がよくわかっている人間と会話をするのは楽しいものだな。お互いに相手の手の内はわかっている。私の誘いを見たギュッヒン侯は、自分の重騎兵達なら、多少の罠があっても食い破れると判断したんだろう。こちらに、重騎兵を迎え撃てる
「それが将軍の作戦だというのであれば、将軍は重騎兵を止める方策があったということですか。どうやって、あの重騎兵を止めたんですか」
驚いたような顔をしたタルカ将軍は、まじまじと私の顔をみた。
「いや、君が教えてくれたじゃないか、重騎兵を止める方法を。安価で、訓練が容易で、重騎兵を仕留められる武器のことを。戦場であれが使われるなんて、三百年ぶりくらいじゃないか」
投槍が廃れたのには、それなりの理由がある。携行できる数に制限があることはその一つだ。弓の方が発射速度に優れ、多数の矢を持ち運べる。もちろん射程も矢の方が圧倒的に長い。
「ひょっとして、投槍兵を投入したんですか。あんなに非効率なものを」
「効率は悪くとも、簡単な訓練と最小限の装備で用意できる。都で徴募すると、いくらでも応募があったぞ。槍を投げる訓練だけをおこない、矢に当たらないように木の盾を渡しただけの即席だが、敵の重騎兵を止めるだけの威力はあった」
だが、ろくに鎧も着ていない兵士たちは、敵の矢の雨にどのように対応したのだろうか。騎兵の突撃の前には弓兵が斉射をするのが通例だが、盾一枚でどれだけ身が守れるのか。顔を見て、タルカ将軍が私の頭に浮かんだ疑問を察したようだった。
「千の投槍兵を投入したが、生き残ったのは三百だけだ。敵の弓兵にやられ、突撃してきた重騎兵にやられ、後詰めの軽騎兵にもやられた。おかげで我が軍は、ほとんどの重騎兵を討ち取り、身動きの取れなくなった軽騎兵を
目の前で素人兵が虐殺されているのを見ていた、
「ギュッヒン侯も、まさか古代の
「そうだろうな。私の次に、反乱鎮圧で功があったのは君だよ、ローハン・ザロフ。もっと誇っていいぞ。ここからは楽しい話題だ。君は恩賞になにを望むんだ」
戦いが終わればどうするのか、まるで考えたことはなかった。西方に残り、ハーラントやユリアンカたちに恩を返したいという気持ちもあるが、すべて忘れて引退したいという考えもある。
「キンネク族とナユーム族との約束である、羊を送り届けることをお願いしたいと思います。それに、ジンベジ、ツベヒ、シルヴィオ、イング、ライドスたちの活躍はすばらしいものでした。士官への昇格をお願いします。私は、西方でキンネク族と接点のある駐屯地にでも配属してもらえれば、それでかまいません」
将軍は私を正面から見つめる。
「欲のない男だな、士官の件は了解した。それより、実は君に頼みたいことがあるんだ。西方で勤務を望むというなら、どうだ。君自身が西方軍団長になってみればどうだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます