手配書

 警戒は解かないまま、重騎兵を先頭に村へ入る。

 横木に吊された兵士たちは、苦悶の表情を浮かべて虚ろに空を見つめている。二人は正規の軍装ではあるが、それほど高い身分にはみえなかった。

 アコスタたちには村の入り口近くで騎乗したまま待機するように命じ、老人についていく。導かれた村の中央にある広場には、十人ほどの槍や弓で武装した男たちが集まっていた。

 「おい、みんな。王様の軍隊の人たちが来てくれたぞ。武器を片付けろ」

 老人の一言で、男たちは武器を地面に向けた。すかさず、あたりを睥睨しながら、できるだけ平静を装った声で語りかける。

 「この村の責任者は誰だ。どういうつもりか知らないが、まだまだギュッヒン侯の部隊がこのあたりをウロウロしているぞ。あんなものを飾っていると、受けなくてもいい報復を受けるかもしれない。すぐにでも埋葬した方がいい」

 「あんたに何がわかるんだ」

 槍を持った男が叫び、再び槍の穂先を上げようとするのを、老人が手で制した。

 「私が村長のモーリアです。隊長さん、あの悪戯者いたずらを吊したのには、それだけの理由があるんですよ。それに、あれを置いておけば、脱走兵がこの村に近づかないと思ったのです」

 ここまで案内してくれた老人が声をあげた。なるほど、この老人が村長なのか。

 「ではモーリアさん。もし、私たちがギュッヒン侯の兵士であればどうするつもりだったんですか」

 老人は再び満面の笑みを浮かべる。

 「いや、あなたのことは知ってますよ。そのお連れさんを見て、ピンときました。鬼角族の女戦士を連れて、反逆者の部隊を襲いまくってたんでしょう。この村には手配書が回ってきてましたよ。隊長のローハン・ザロフを殺せば報奨金がでるという手配書が」

 「親父は、けっこう有名人なんだな」

 イングが茶化すが、無視してはなしを続ける。

 「だったとしても、正規兵の死体を吊すことは無駄な危険を招きます。すぐに埋葬してください。ところで、確認したいことがあるんですがいいですか」

 周囲の男たちから、不満げな雰囲気が漂う。あの兵士たちは、この村で何をしたのだろうか。

 「まず、私たちはギュッヒン侯の部隊が撤退しているのを確認しているのですが、タルカ将軍がギュッヒン侯に勝ったという報告は受けていません。その情報はどこからのものなんでしょうか」

 一瞬、村長が不思議そうな顔をする。

 「タルカ将軍が勝ったというはなしは、俺がきいてきたんだ」

 弓を持った男が声をあげる。

 「珍しい鳥が手に入ったので、隣町のアブラビルに売りに行ったんだ。そしたら、町がお祭り騒ぎになってたんだ。なにがあったんだときいたら、インバードンという場所で反逆者が王様に負けたんだと。町からは軍隊が逃げ出しているし、あわてて村に帰ってきてみんなに教えたんだ」

 インバードンは都の南西、東に川、西に森があり騎兵部隊が使いにくい場所だ。百年ほど前、我が国に攻め込んできた敵を、当時のセーチェウ将軍が打ち破った古戦場でもある。セーチェウ将軍は、通過不可能であると思われていたインバードンの西にある森を通り、敵の側面から攻撃を仕掛けたのだ。この故事は、我が国の軍人なら誰でも知っている。タルカ将軍もギュッヒン侯も、それを理解した上でインバードンを決戦の場に選んだのだろうか。

 「わかりました。それでは、アブラビルに行けば細かいことがわかるというですね」

 ツベヒに目配せをする。急げば日が暮れるまでにたどり着くことができるだろう。

 「私たちはアブラビルへ向かいます。村の入り口の死体は埋葬しておいてくださいよ。ここより西に配置されていたギュッヒン侯の部隊が、この場所を通過するかもしれません。これは忠告です」

 私たちは急いで、街道に戻り東へ進むことになった。

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