将軍万歳!

 アブラビルへ向かう私たちの足どりは軽かった。

 全員が馬に乗っているのだから、足どりが軽いというのはおかしいが、戦争が終わった可能性が高いということで気分が高揚しているのだ。

 「隊長、本当に戦いは終わったんでしょうか」

 ツベヒは心配そうな顔だ。兵隊たちが、すっかり警戒心を失っている。

 「状況からすると、戦いが終わったという可能性が高い。アブラビルまでいけば、詳細がわかるだろう」

 馬を休ませるために、アコスタたちも鎖帷子くさりかたびらや胸甲を外しており、戦うことになれば苦戦は免れない。しかし、日が暮れる前に町へ到着したいのだ。夜だと、敵と間違えられる可能性がある。本当にタルカ将軍が勝利をおさめているのであれば、堂々と町へ入る方が安全だろう。重騎兵はギュッヒン侯の代名詞でもあるので、アコスタたちが鎧を着ていないことにも意味がある。

 少し急いで街道を進んだことで、日が暮れる少し前にアブラビルへ到着することができた。


 アブラビルの町にも、敵の攻撃を妨げる馬防柵などはなかった。ギュッヒン侯の部隊がいたとしても、ここで戦うというつもりはなかったようだ。

 「二列縦隊! 先頭は私とユリアンカさんだ。もし戦争が終わっているのであれば、これは凱旋になる。背筋を伸ばせよ。英雄の帰還だ。戦いになる可能性もある。油断はするな」

 イングが不機嫌そうな声を出す。

 「親父、なんでこの女が先頭なんだ。百歩譲って、ツベヒが先頭というのであればわかる。坊ちゃんはシュッとしてるからな。なんで鬼角族なんだ」

 少し前を進んでいたユリアンカが、鬼のような形相で振り返る。

 「イング! 鬼角族ではなく、キンネク族だ。ユリアンカさんに謝れ!」

 手の早さでは、ユリアンカも負けていない。激怒したユリアンカを押さえるのは、兄のハーラントでも手こずるほどなのだ。イングは私の剣幕に気圧けおされたものの、モゴモゴいっているだけだった。

 「失礼だぞ。謝罪するんだ!」

 「すまん。キンネク族だな。許してくれ」

 馬上での戦いはユリアンカの独壇場だが、イングも剛の者だ。ユリアンカを恐れたわけではない。私へ気をつかって謝罪の意を示したのだろう。謝罪に納得したのか、ユリアンカはプイと前を向いた。

 「ガビエの村を忘れたのか。私たちは、お――キンネク族とともに行動していることが知られているんだ。ユリアンカさんが先頭にいれば、手配されている国王の部隊とわかるだろう」

 説明に、イングは合点がいったという表情に変わる。頭ごなしに怒ったが、やはり合理的理由があることを説明することが大切だろう。

 私たちが町に近づくと、こちらに気がついた町の人々が姿を見せる。敵か味方か、はかりかねているようだった。

 「国王の軍、西方軍団指揮官のローハン・ザロフだ! 攻撃をするなよ!」

 怒鳴り声をあげ、自分が王の味方であることを主張する。

 勝ったというはなしを本当に信じていいのか。少しだけ不安がこみ上げてくる。だが、殺気は感じられない。ヴィーネ神から賜った贈物ギフトは、訓練トレーナーという優れた能力を与えてくれたが、同時に殺気にさらされると体が動かなくなるという弱点も持つことになった。しかし、殺気を感じるという弱点は、使い方によっては敵の攻撃を察知するという利点にもなっているのだ。

 慌てず、堂々と町に向かって進んでいく。威厳を持った凱旋軍なのだ。ビクビクする必要はない。

 町の人々がバラバラと集まってくる。武器を持つ者もいるが、構えてはいない。

 人々の視線が、私たちに集まるのがわかる。視線は人を射るのだ。一人や二人ならわからないものだが、数十人に見つめられると見られているのを肌で感じることができる。

 なぜか人々からどよめきがおこる。私の隣に並んでいるユリアンカを見つけたのか。

 その時、突然町の人々から声が上がった。

 「国王陛下万歳! ザロフ将軍万歳! 国王陛下万歳! ザロフ将軍万歳!」

 いったい、いつ私は将軍になったんだ。

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