ユリアンカとともに
その晩は見張りを厚くし、天幕は張らずに屋外で眠ることにした。もし私が追撃部隊の指揮官で、敵の部隊を十分撃破するだけの戦力を保有しているなら、夜を徹して追撃して相手を攻撃するだろう。千載一遇の機会を逃すのはあまりにも惜しい。問題は、夜間に馬の移動した跡を追跡するのが困難であることと、やはり騎乗しての夜間移動が遅くなることだ。下手をすると、疲労困憊したあげく敵のところまでたどり着けず、距離を稼げる昼間に野営をするはめになるかもしれない。もちろん、睡眠など無視して進むこともできるが、そのような状態で戦いに臨まなければならないとすれば、大きな戦果は上げられない。敵の目的が、私たちを西方へ追い払うことであるなら、無理をして攻撃をする必要もないと考える指揮官がいても不思議ではない。
その一方で、私たちにも考えなければならないことがある。敵を完全に置き去りにすると、敵兵は自軍の陣地に戻るだろう。それでは、ギュッヒン侯の騎兵部隊を引きつけるという本来の目標を達成できない。追撃を諦めない程度に距離を取りながら、西方へ敵を引きつけることが必要なのだ。
ツベヒには、明日私が偵察に出ることを伝え、夜の見張りから外してもらった。
寒さに凍えながら目を閉じると、いつの間にか意識が消えていった。
敵襲の声もなく、その夜はぐっすりと眠り、目が覚めると東の空から日が昇りはじめていた。
これほど深く眠ったのは久しぶりだ。暖かくはあったが、馬の臭いと他人の
「おはよう、イング。見張りご苦労。昨日は休ませてもらってすまなかったな」
生あくびをしたイングが、眠そうな目をこすりながらいった。
「おはよう、親父。今日は偵察に出るってきいたが、俺も連れて行ってくれるんだろ」
番犬のように私を守ってくれるイングは、とても頼りになる兵士だが、今回の偵察には連れていくことはできなかった。
「すまない。今回は私とユリアンカさんでいきたいと思う。敵を見つけても絶対に戦わないつもりだから、逃げるための馬の扱いが大切になる。お前とシルヴィオ君は、もう少し乗馬の技術を身につけてくれないと敵に追いつかれるかもしれないから、今回は留守番だ」
ジンベジがいれば、ジンベジに頼んだだろう。鬼角族との生活で、槍の腕前も馬の扱いも今では一級品になっている。貴族の出身であるツベヒなら馬の扱いは上手いのだが、残していく兵士たちの指揮を任すのに最適任であることから連れていくわけにはいかなかった。
「逃げるだけなら、俺でもついていけるだろ。連れていってくれよ」
「もう一つ理由がある。お前はナユーム族に
頼りにされ、まんざらでもないイングを残し、ハーラントのところへ向かう。
キンネク族たちのほとんどは、すでに目を覚ましており、数名の男が朝食の用意をしていた。
「おはよう、ハーラントさん。今日のことを相談しにきたんだが、いいかな」
「ローハンか。敵の夜襲を恐れるのはわかるが、天幕がないとまだまだ寒くて眠れんぞ」
「申し訳ありません。敵が夜襲をかけてくる危険があったのです。敵との戦いはできるだけ避け、西に進んでください」
ハーラントが、大きなあくびをした。
「なんだ、戦わないのか。つまらんな」
「追撃の部隊を送ってきたということは、こちらに勝てるだけの騎兵を揃えているはずです。少なくとも二百、多ければ三百は連れてきているでしょう」
少し遠くを見るような目をした族長は、三百の騎兵と戦って勝てるかどうかを考えているようだった。
「ついては、敵を偵察するためにユリアンカさんを貸してもらえませんか」
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