のどかな風景
数名の見張りを残し、鬼角族たちは外套に身を包んで、てんでバラバラに眠りについた。戦いが終わり、興奮が引くと恐ろしく眠くなるというが、おそらくそういうことなのだろう。
私のところには、槍で突かれたり、弓で射られたりして怪我をした鬼角族の戦士がたずねてきたので、応急処置をしておいた。幸いにもケガは軽く、明日以降も戦えそうだ。
奪い取った荷馬車から、あらたに十本の投槍をつくれる計算なので、これで用意した投槍は七十本になる。以前の戦いで鬼角族に使った待ち伏せ戦法では、せいぜい二投までしかできなかったので、投槍兵のために準備しなければならない
半刻で三個、二刻半あれば
平たい板から、大雑把に前と後ろに
火の気のない、底冷えする草原で黙々と
その寂しい気分は、馬の小さな
次第に東の空が白みはじめると、寒さは最高潮に達し、吐く息が白くなるのが見える。
薪にする材料はある。この見晴らしなら、奇襲を心配する必要はないだろう。炊事の煙が敵を引き付けるかもしれないが、温かいものを腹に入れる方が兵士たちの士気をあげるはずだ。
「ジンベジ、シルヴィオ、ツベヒ。起きろ。朝だぞ」
私の声に、三人は外套の中で体を伸ばし、疲労の為、あまり大きく開かない
「三人とも起きてくれ。荷馬車はもう使えないから、薪にしてなにか温かいものでも作ってくれないか。スープでも香草茶でもかまわない。鬼角族の連中にも振舞ってほしい」
そこまでいってから、百人の兵士にスープやお茶を用意するために必要な道具も、水もないことを思い出した。
「いや、すまない。今の命令は忘れて欲しい。かわりに荷馬車を壊して、焚き火をつくってくれるかな」
「おはようございます、教官殿。焚き火をつくるのはいいですが、煙は問題ありませんか」
あくびをしながら、ジンベジが起きてくる。ツベヒはいろいろなことがありすぎて疲れたのか、なかなか目をさまさなかった。
起きだしてきたシルヴィオも、こちらへ視線を向けていた。
「大丈夫だ。朝飯を食べれば、この場所からは移動する。温かい飲み物が用意できないなら、せめて体くらい温めてやりたい。明日か明後日には命を賭けた戦いになるからな」
ジンベジがツベヒを起こし、三人で横倒しになった荷馬車へ向かっていく。
「隊長、このままここで燃やしてしまうのはどうですか」
シルヴィオの提案を断る理由がなかった。今から時間をかけて薪をつくるより、大きな焚火に皆であたる方がいいかもしれない。
しばらくすると、特大の焚き火が燃え上がり、それに気がついた鬼角族の戦士達も集まってきた。
戦いが近いというのに、その風景はひどくのどかなものだった。
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