作戦会議

 さっそくストルコム、黒鼻族のヤビツ、鬼角族のハーラントを集め、本部天幕で作戦を検討する。

 モフモフがどう思っているのかは、その表情からわからないが、肉ダルマはニヤニヤしながらずっと羊をみつめていた。うまそうだなどと思っているのかもしれないが、私との約束は守るだろう。

「さて、みなに集まってもらったのは他でもない。あと二十日ほどで間違いなくこの集落を襲いにくる、キンネクの騎兵達をどう撃退するかということを話しあいたい」一同の顔を見渡してから続ける。「ハーラントさんの情報により、敵の総数は二百四十前後。こちらの兵力は、増援を含めると槍兵二百四十、チュナムの投槍兵二百四十、キンネクの騎兵二十で、敵よりは圧倒的に多い」

 とがめるようなストルコムの視線は無視した。黒鼻族からは特に反応はない。

「これがこのあたりの地図だ」

 テーブルの上に地図を広げ、私たちのいる場所を指さす。

「ここが私たちの天幕。陣地はここにある」

 小さな箱からいくつかの積み木を出し、地図の上に置いていく。

「これが槍兵隊。二つに分けて配置する」

 青く塗られた横長の積み木を、丘陵の西に二つ配置する。

「これが投槍隊」

 青い長方形の積み木を、槍兵隊の後ろに配置する。

「これが騎兵隊」

 四角い青の小さな積み木を、長方形の積み木の前に置く。

「これが敵の騎兵隊。ひとつが四十騎として、六つ置く」

 赤い長方形の積み木を、陣地の西側に置いていく。

「さあ、君たちならどう戦う?」

 私の問いかけに、ハーラントが答えの口火を切った。

「人間は回りくどいことを考えるんだな。我なら、馬を駆り敵の指揮官の素っ首落として終わりにするぞ」

「教官殿に失礼なことをいうな。兵棋演習は士官としての必須科目で、軍人なら誰でも知っている事柄だ。お前は教官殿に負けたのだから、だまって俺たちの命令に従えばいいんだよ」

 ストルコムのことばに鬼角族は少しムッとした顔をしたが、私はあえて鬼角族に問いかける。

「ハーラントさん、あなたならどう戦いますか。ぜひ教えてもらいたい」

 鬼角族はしばらく考えた後。赤い積み木を両手でつかみ、そのままこちらの陣地の方へ押しやった。

「これで終わりだ。数が同じなら、人間の槍兵なぞ我らの敵ではない。正面から攻撃すれば、必ず勝てる」

 ストルコムが鼻で笑う。完全にハーラントをバカにしているが、損害を考えないのであれば、この作戦こそ必勝であることには気がついていないのだろう。

「たしかに、その作戦なら勝てるかもしれないが、どれくらいキンネクの戦士は命を失うと思う?」返事を待たずに続ける。「少なくとも百名は死ぬか後遺症が残る大怪我だ。あなたが族長になっても、三百人の集落を率いたくはないだろう」

 すぐに問題点を理解し、次の考えに移ることができるのは頭の良さの表れだ。

「ではこうしよう。四十名ほどを頂上の集落に向かわせる。ここで守っている連中は、羊たちを守るか、見捨てるか選ばなければならない。陣を捨てれば背後から襲う。見捨てれば、この羊たちは戦う気がなくなるんじゃないか」

 ハーラントは、青い長方形の積み木を指でトントンと叩いた。

「私も同じことを考えていた。敵は騎兵の一部をいて、集落を襲うことでこちらへ圧力をかけることができる。さらにその騎兵で、こちらの側面、あるいは背後から攻撃も可能だ」

「教官殿、だったらはじめからこの陣地を無視すればいいんじゃないですか?」

 ストルコムの質問への答えはすでにある。

「こちらのハーラントさんはキンネクの正統な後継者だが、弟がその地位を簒奪した。簒奪者たる弟は、族長の権威を確固たるものにするため、父の仇である私たちを皆殺しにしようと考えているはずだ。ゆえに、こちらの兵士を無視することはできない」

 だろう、だった、はずだ。すべてが仮定の上に成り立つ。まるで砂上の楼閣のようだ。

 ハーラントがスパイである可能性もゼロではない。増援を水増ししたり、投槍羊の数を多く伝えたのもそのためだ。残りの日数、私たちはどこまで準備ができるのだろうか。

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