第7話 鷹と涙と十字路と。

 いつものように明るいコンビニの中をふらふらと一巡してから、ゴブ子はもう一度雑誌の陳列している場所を通り、ペットボトルの置かれた保冷棚の前で買い物かごを手に取った。

 それから保冷棚の前に立つと、フードの下の耳を動かしながらしばし棚を眺める。

 背伸びをして手に取ったのはペットボトルのコーラ。

 それをかごに入れると保冷棚の前からレジに向かって通る棚の間に足を向ける。

 そして菓子の棚の前に足を止めると赤い下地にハート型の模様がちりばめられた袋を手に取りかごに入れた。

 そのまま菓子の陳列棚の前を抜けレジに向かうと、レジにはいかずに折れ曲がって総菜パンやおにぎりの並んだ場所に向かう。

 まずは総菜パンの棚の前で物色を始めるが、その足はすぐにおにぎりのほうに向かった。

 しかしおにぎりの前でもその手は動くことはなく、顔を傾けかごの中身を確認すると、そのままレジへと足を向けた。

「いらっしゃいませ!」

 元気よく無機質な店員のあいさつ。

 ゴブ子はかごを持ち上げレジカウンターに乗せる。

「あト、肉まンとあんまンひとつづツ」

「肉まんとあんまん、おひとつづつですね!」

 店員は蒸し器の前に行くと紙袋に蒸かしまんを入れて戻ってくる。

「袋は別々にいたしましょうか?」

「いっしょで良イ」

「ありがとうございます!」

 ゴブ子は支払いを済ませてレジ袋を受け取ると、そのままコンビニの外へと向かう。

「冷えるナ」

 ゴブ子はかぶったパーカーのフードをなおすと歩き出す。

 空には満月が浮き道は明るいが、道が明るい分、影はその色を濃くする。

 もっとも影が濃くなろうがなかろうが、夜目の利くゴブ子には関係なかった。

 ゴブ子はレジ袋から肉まんを取り出すと、しばし左右の手でかわるがわるに持ち替えて、最後に両手で軽く包み込み、口先で底についた紙を起用に引きはがすと、口を大きく開いてかぶりついた。

「んフ……」

 口を動かすと自然と鼻から息が零れた。

 二口三口と肉まんを食べながら道の端を歩くゴブ子。

 そのゴブ子の視線が少し先の十字路に向けられる。

 弱く光る街灯の下に立つ人影。

 その頭の前あたりを赤い点が前後に動いているのが見て取れた。

 ゴブ子は肉まんを頬張りながら歩いていく。

 十字路に近づくにつれゴブ子の視線が自然とその人物へと向いた。

 その人物の視線もゴブ子へと向く。

 革のジャケットを着た背の高い人物。

 胸と腰が滑らかな曲線を描いている。

 ゴブ子は視線を外すとレジ袋を左手に下げ、右手をパーカーに中に入れた。

 人影の前を歩いていくゴブ子。

 通り過ぎ、しかしその視線を背後に感じたその時だった。

「おまえ人間じゃないな?」

 その声にゴブ子は足を止める。

 普通なら無視して歩み去ってもよかったが、相手のただならぬ雰囲気に無視して通り過ぎるのは無理だと悟っての行動だった。

 そして右手をフードの中に隠したまま、ゆっくりと振り返った。

「……なにカ用カ?」

「いや……驚かせたなら済まない」

 女は煙草をくわえると両手を小さく上げた。

「……んン?」

 ゴブ子はゆっくりと近づくと少し眉を顰める。フードの下の耳が動く。

「おまえモ違うナ」

「まーな」

 女は煙草を携帯灰皿でもみ消すと笑みを浮かべた。

「おまえ、ひょっとして審問官のとこのゴブリンか?」

「……ならなんダ?」

「そう警戒するなって」

 女は上げた手を左右に振る。

「狸に聞いて、ちょっと興味があっただけだ」

「タヌキ?……あいつカ」

 ゴブ子は骨董屋の親父を思い出し、もう一度眉をひそめた。

「……あいツ……」

 そうつぶやいてからゴブ子は踵を返す。

「用がそれだけなラもう行ク」

「まぁまてまて」

 その背後に女が声をかける。

「暇ならちょっと寄ってかないか?」

「……寄ってくっテ、お前に家にカ?」

「違う違う。そろそろのはずなんだけど」

 首を傾げ女に向き直るゴブ子。

 女は腕の時計に目を落とした。

 月の明かりが溶けるように微かに明るくなる。

「なんダ?」

 そうつぶやいたゴブ子の前、何もなかったブロック塀の真ん中に、木でできた少し古めかしい扉が、月明かりに浮かび上がった。

「おっと、来た来た」

 そういうと女はその扉に手をかける。

「どうだい? 奢るぞ?」

 女が扉を開くと甲高い金属製のベルの音が小さく響く。

 ゴブ子は右手をパーカーに入れたまま、女の後について扉をくぐった。



「あら、いらっしゃい」

 カウンターの奥から静かな、しかし厳かな声が響く。

 白いドレスを着た妙齢の女性。

「変わった娘を連れてきたのね」

 その視線がゴブ子に向くと、ゴブ子の身体は自然と固くなった。

「ゆっくりしていってね」

 女性はそう告げると視線を逸らす。

「こっちだ」

 女はゴブ子を誘うと奥のボックス席へと向かう。

「あレ……あの方ハ?」

「ああ、ここの女主人。四辻の聖女様だ。優しい人だが、怒らせるとおっかねぇからな?」

「いわれなくてもそれはわかル」

 ゴブ子は詰まった息をようやく吐き出すようにして呟いた。

「だよなぁ」

 女も頷いた。

「あれでも分霊の一部って話だからな」

「あれでカ!」

 ゴブ子が小さい悲鳴と共に身体を震わせた。

「やっときましたね」

 ボックス席にはすでに一人の女性が座っていた。

 黒い長い髪をしたおっとりとした感じの女性。

「面白いのとばったり会ったから連れてきた」

 そう言って女は先に来ていた女性の反対側のソファに座る。

 ゴブ子もその隣に腰を下ろした。

「異国の精霊ね。わたくしは泣沢。よろしくね」

「ゴブ子ダ」

「いけね、そういえばあたしは名前も言ってなかったな」

「そうナ」

 ゴブ子はフードを外しながら女に顔を向けて笑う。

「あたしは鷹神、よろしくな」

「よろしク」

「私もよろしくね」

 いつの間に立っていたのかボックス席の脇に女主人が立ち、それぞれの前にグラスとチーズと緑色の実の乗った小皿をおいて立ち去った。

「心臓に悪イ……」

「気に入られたな」

「気に入られましたわね」

 ふたりは笑いながらグラスを手に取り軽く掲げる。

 ゴブ子もグラスを手に取ると軽く掲げた。

 それからグラスの中身に視線を落とす。

 透明なグラスの中には白濁とした液体がさざ波だっていた。

「これハ?」

「ウーゾ」

 鷹神の答えにゴブ子は鼻を鳴らしながら口をつける。

「強いナ」

 ゴブ子は少し眉をひそめてからもう一口飲む。

「でも嫌いじゃなイ」

「ならよかった」

 鷹神はグラスを傾ける。

 細く長い喉元が静かに波打つ。

「ここは一杯目は必ずそれなんだ。飲まなくても構わないが飲んでおいたほうが良い」

「神のお酒ですからね」

 そういって泣沢もグラスを傾ける。

 雰囲気から鷹神と泣沢は飲み友達といったところだなとゴブ子は思ったが、それぞれの印象はかなり違う。

 初めに声をかけてきた鷹神は鳶色の短めの髪で目つきはどこか鋭い。背は高いが線は細く、引き締まった印象だ。パイロット風の革のジャケットにスラックスを身に着けていた。

 対する泣沢は黒いつやのある長い髪に優しげな目元、全体的にふっくらとしており、ドレスシャツにスラックスという男装ながらしっかりと女性らしさと気品を醸し出している。

 そしてこの女性も恐ろしく強い。ゴブ子の本能がそう告げていた。

 鷹神の方はおそらくゴブ子自身の存在に近い。

 しかし泣沢はおそらくここの女主人に近い存在だ。

 とにかくここではおとなしくしておこう、ゴブ子はそう心で呟いた。

「ゴブ子さんはどちらからいらしたの?」

 小皿のチーズを添えられていた小さなフォークで器用に切り分けるとそのひとかけらを左手を添えて口へと運ぶ。

「どちらかラ?」

「ああ、あっちから来たのはわかるけど、こっちの世界のどのへんのあっちから来たのかって話だよ」

 鷹神が緑色の身をフォークで刺そうと苦戦しながら言葉をつなげる。

「あア。そういう意味なラ、ブリテン島ダ」

「イギリスかぁ。行ってみたいなぁ」

「どうやって日本に来られたんです」

「それ気になるな? 呼び出されたのか?」

「いヤ。飛行機で来タ。たぶン」

「飛行機?!」

 ふたりがゴブ子に顔を向ける。

「どうやって乗ったんだよ!」

「乗ったというカ。乗せられタ」

「乗せられタ?」

「その手の売人につかまってナ」

「まじかよ!」

 鷹神が声を上げ、泣沢は顔をしかめた。

「話は聞いてたが、当事者に合うのは初めてだな。やっぱりひどい目にあったのか? あ、いや、言いたくなければいいんだ。すまん」

 妙に気を使った言葉にゴブ子はそごうを崩し、首を横に振った。

「酷いことになる前ニ、逃げたからナ」

「なんだそうか」

 鷹神はソファーに深く腰を沈め、グラスを傾ける。

 それから再び身体を起こし、ゴブ子に顔を向けた。

「しかしそれでも許せないな。やったやつに爪痕でも残してやろうか」

「つめあト?」

「鷹神さんの爪痕は祟りなの」

 楽しそうに口元を綻ばせながら泣沢がそう告げた。

「たたリ?」

「あたしの爪痕受ければ確実に死ぬぜ」

 口元を歪める鷹神。

「いやいイ」

 ゴブ子は笑いながら、しかし鷹神の提案を断った。

「なんでぇ」

 不平を漏らしながら、しかし笑みを浮かべる鷹神。

「遠慮することないのに」

「遠慮はしてなイ」

 ゴブ子は小皿からチーズを取ると口に運びグラスを傾ける。

「復讐は、まぁ一応済ませてル」

「なんだそうか」

「それニ……」

 言葉を切ってゴブ子は口元を歪める。

「殺るなラ、自分で殺ル」

「……違いない」

 鷹神も口元を歪めた。

「そんな物騒な話はそのへんにして……」

 泣沢が口元を緩め、しかし少し眉をひそめながらゴブ子を見る。

「ゴブ子さんは審問官のファミリアなのよね?」

「そうそう、それだ」

 泣沢の言葉に鷹神も乗ってくる。

「なんで審問官なんかの」

「審問官に恨みでもあるのカ?」

 切り返すゴブ子に鷹神は頭を掻き、泣沢は思わせぶりに首を傾げた。

「まぁあたしたちは魔女だからな、審問官とは折り合いが悪いんだ」

「魔女?」

 ゴブ子は首を傾げた。

「人間でもあるまいシ、なぜわざわざ魔女を名乗ル?」

「こっちの型にはまっておいた方がこっちにいやすいし、何かと楽なんだよ」

「多少力が減じることもありますが、普段はそれほど気になることでもありませんし。ゴブ子さんだってファミリアという型にはまることで、こちらに居やすくなっているのでしょう?」

「それにここは四辻だ。精霊と魔女の集う場所。精霊で魔女でも問題ないだろ?」

「そんなもんカ?」

 ゴブ子はグラスを傾ける。残っていたウーゾを飲み干す。

「もっと飲むか?」

「もう少しもらおうかナ」

「おうよ」

 鷹神がカウンターに目を向けるとテーブルに白い液体の入ったガラス製の瓶とピッチャーが現れた。

 鷹神はガラスの瓶を手に取るとその蓋を引き抜き、中身を各々のグラスへと注ぐ。

 無色透明の液体がグラスの四分の一ほどを満たすと瓶を置き、今度はピッチャーの中の液体を注ぐ。

 透明だった液体が、見る間に白く濁っていった。

「面白いナ」

 ゴブ子はその様子を興味深げに見つめる。

「で、なんで審問官のファミリアを?」

 グラスを差し出しながら鷹神が聞く。

「……別に審問官のファミリアをしているつもりはなイ」

 ゴブ子がそう答えると、鷹神と泣沢は顔を見合わせた。

「ほうほう」

「あらあら」

「……なんダ」

 ゴブ子はグラスを傾ける。

「そのへん詳しく聞きたいわ」

「だよな!」

 食いついてくる二人を見据えるゴブ子。

「……腹が減ったナ」

「おう、何か食べるか! 何が良い?」

「なにがあるかわからんガ、肉」

「肉な!」

 そういって鷹神がカウンターに目を向ける。

 程なくして串にささった肉の塊が皿に乗ってテーブルの上に現れた。

「これは旨そうダ」

 ゴブ子は串を一つ手に取ると、肉に喰いつき、そのまま串を横に引く。

 串から離れた肉の塊をそのまま口の中に頬張り、頬を膨らまして咀嚼するとグラスを手に取り流し込んだ。

「うン。これは旨イ」

 さらにもうひとつ齧り付く。

「……で?」

 ゴブ子を見る二人に対し、ゴブ子は口を動かしながら首をかしげる。

 そしてしばらく口を動かし、喉を大きく動かすと、もう一度首を傾げた。

「なにガ?」

「おいおい、ここで思わせぶりは無しだぞ」

「そうですわよ」

 三つ目の肉塊を咀嚼するゴブ子に対し、ふたりは非難の声を上げる。

「……何が聞きたいんダ?」

「審問官のファミリアじゃないってことは、個人としてファミリアを結んだってことだよな?」

「まぁそうだナ」

 鷹神の言葉をゴブ子は肯定する。

「しかも呼び出されたわけじゃないってことは、こっちで逃げ出した後に出会ったってことだろ?」

「そうなるナ」

「偶然の出会いからのひとめぼれですか?!」

「なんでそうなル」

 泣沢の言葉にゴブ子は口元を歪め眉を歪めた。しかしその耳は上下に揺れる。

「違うのですか?」

 すこしトーンを落として泣沢が首をかしげる。

「初対面じゃなイ」

「じゃあ以前にもどこかで会ってたってことか。どこで?」

「……ブリテン島デ」

「ひょっとして!」

 泣沢が少し身を乗り出してゴブ子を見つめる。

「日本に来るためにわざと捕まったんですか?!」

「……」

「おいおいまじか!」

 今度は鷹神が身体をゴブ子に向けるように身を乗り出す。

「そいつに会うためにわざわざ捕まって日本に来たってことかよ!」

「どうしてもブリテン島を出なくてはならなかっただけダ!」

 言い返すゴブ子。

「……まぁ他に頼る当てもなかったかラ……」

 あとから小さく付け加える。

「……いいなぁ」

「……いいわねぇ」

「いいわけないだロ!」

 反論するゴブ子。

 両耳は上下に動く。

「まぁ確かにいろいろ事情はあったんだろうけどさ」

 鷹神はグラスを手にソファに深く座りなおす。

「そうやって好きなところに行けるってのはいいよなぁ」

「いいですよねぇ」

「行けないのカ?」

「まぁ魔女として固定してるからいけなくはないが、難しいだろうな。あたしはともかく泣沢は影響がでかすぎる」

「そうねぇ」

「影響で言えハ、ここの女主人だっテ相当だろウ」

 そう問いかけるゴブ子に鷹神は頷く。

「だから彼女はここから出ない。ここは彼女のテリトリーでこっち側だ」

「なるほド」

 ゴブ子は深くうなずく。

「そんなことより」

 再び泣沢が身を乗り出す。

「その方と婚姻は結ばれたのですか?」

 グラスに口をつけていたゴブ子がむせ返る。

「こんいン?!」

「おー単刀直入にいったな! 確かにそこは聞きたい」

 鷹神もグラスを掲げる。

「われは単なる主のファミリアダ」

 ゴブ子はそう言ってグラスを空ける。

 置かれたグラスに鷹神がウーゾを注ぎ水を加える。

 グラスの中で白濁が揺蕩う。

「それでもあれだろ?」

 注いだグラスをゴブ子の前に押し出しながら語りかける。

「脈がないわけじゃないんだろ?」

「みゃク?」

 ゴブ子はグラスを傾けながら答える。

「例えば褥を共にしたとかですわ」

「しとネ?」

「寝所のこと。一緒に寝るってことだ。わかんだろ?」

「あア、そういうことカ」

 鷹神の言葉にゴブ子は頷く。

 両耳が大きく動く。

「こっち風に言うと情を交わすってやつカ?」

「そうそうそれそれ!」

 ふたりが身を乗り出してくる。

「それならしょっちゅうあル」

「それなら婚姻を結んだも同じじゃありませんか!」

 声を上げる泣沢。大きく頷く鷹神。

「そうかァ?」

「異種族婚はその契りをもって婚姻と見なすことは結構多いぞ?」

「うーン。でモそういう性癖でわれみたいのを買うやつもいるだロ?」

「それではあなたの主とやらは、あなたみたいな異種族をとっかえひっかえ?」

「それはなイ!」

 思わず声を上げて、気まずそうにグラスを傾けるゴブ子。

「人間の愛人が沢山いるとか?」

「それもないナ」

「あなただけ?」

「……われの知る限りハ」

「それじゃ決まりじゃねぇか」

「そうかァ?」

 ゴブ子はそっけなく答える。

 両耳は激しく上下に弾む。

「楽しそうねぇ」

 まるで以前からそこにいたように、テーブルの脇に立つ女主人。

 皆の視線が一斉にそちらに向いた。

「もう他の客も来ないでしょうから、私も仲間に入れてね」

 そういうと泣沢の隣に静かに腰を下ろす。

「今日はもう、奢るわ」

 女主人の視線がテーブルに向く。

 つられるように皆の視線もテーブルに戻る。

 テーブルの上には所狭しと料理が並べられていた。

「ゆっくりお話ししましょう」

 そういうと女主人はグラスを掲げた。




「おいおい大丈夫か?」

「んン?」

 見上げるゴブ子の視線に入ったのは見慣れた男の顔。

 道充だった。

「あー主カ」

「どこに行ったのかと思ったら……酔ってるのか?」

「迎えに来てくれたのカ?」

「コンビニに買い物に来ただけだよ」

 そう言う道充の手には何も持たれていない。

「んんフ」

 耳を大きく揺らしながら小さく息を吐くゴブ子。

「フードはちゃんと被れよ」

 道充はズレたフードを被り直させる。

「しかし……どこで飲んだんだ? コンビニでチューハイでも買ったのか?」

「んふフ……秘密ダ」

 そういってゴブ子は手に持ったレジ袋からあんまんを取り出すとを通允に突き出す。

「やル」

「なんなんだよいったい」

 そうぼやきつつも道充は差し出されたあんまんを受け取った。

「あっつ!」

 道充は手の中であんまんを転がす。

 それを見ながらゴブ子は前へと歩き出す。

「おいおい本当に大丈夫か……」

 その言葉にゴブ子は立ち止まった。

「どうした」

 道々の問いかけにゴブ子は上を向き、両手をつきだした。

「大丈夫じゃなイ」

「おいおい」

「だっコ」

「はぁ?」

「だっコ」

 再び手を突き上げるゴブ子に道充は頭を掻いた。

「……しょうがねぇなぁ」

 そういうと道充はゴブ子からレジ袋を取り上げ、その中にあんまんを放り込むと、ゴブ子を抱き上げた。

「んフ」

 抱き上げられたゴブ子は、道充の首に手を回すとその身体に顔をうずめる。

そして小さな息を漏らした。


                         第7話完

  

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おっさんとゴブリン 竹雀 綾人 @takesuzume

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