なぜか知れぬ悪魔の態度


 セツキとサイが真剣での稽古をしている。そんな話が城中に広がっていたようで見物の者がわんさと集まっていた。その見物客の最前列にいる者たちにケンゴクが声をかける。


「ココリエ様、姫さん、見物ですかい?」


「あ、ああ。ルィルに呼ばれてな。いきなりはじまるはじまる、と言って仕事から引っ張られたのでなにかと思えば……真剣を使って、とはいえもう、言葉にならぬな」


「ですよね~」


 簡単にですよね、言ったケンゴクだが内心冷や汗ダバダバだった。お互いに急所を本気で狙っていたことといい、本物の、《戦武装デュカルナ》により創造された武器を使っていたことといい、すべてにおいてもう言葉にならない。てか、してはいけない気が……。


 一手でも違えば確実に相手の命を奪っていただろう一撃一撃に寒気がする。が、いいもん見られた。城の兵役者たちも心同じだったのかうんうん、いいもの見せていただいた、と頷いている。なのだが、稽古していたふたりはお構いなしで顔の汗を布で拭いている。


 そして、セツキの方はココリエたち王族兄妹に気づいて恭しい一礼をくれ、ココリエの前に来て、首を傾げた。「いかがでしたでしょう?」と口にしたいのだろうが、生憎真剣勝負の緊張と朝からぶっ続けの稽古で息があがっているので声がうまくでない模様。


 ココリエはサイに付き合わされたセツキの疲労に乾いた笑いでも、ひとつ頷いて微笑んだ。非常に為になる、いいものを見させてもらった、との意にセツキも微笑む。


「サイ、サイ! お疲れ様ですっわたくし、お水持ってきました~! こっちです~」


「ルィル、うるさ」


 サイに自分の存在をアピールし、水の入った筒を手にしてぶんぶん手を振るルィルシエにサイが突っ込もうとしたが、ルィルシエの隣にココリエがいるのを見て目を細めた。


 そして、無言でルィルシエから水筒を受け取って、喉を潤し、ルィルシエに「勉強はどうした?」と訊ねている。ココリエの存在を無視して声のひとつも寄越さないサイに誰もなにも言わない。もう、常のことになりつつあった。サイがココリエに冷たくするのは。


 最初こそ、ケンゴクが茶化して「喧嘩ですかーい?」とか、セツキも「なにか気に入らないことでも?」と訊いたが、サイの答はすべて「別に」だった。だから、意味不明。


 別になにかあったわけでもないのに、この態度の急変と冷え込みはいったいどういうことなのだろう。なにもない、とサイは言っているが、あきらかになにかあったのだ。


 武士ふたりはココリエに心当たりを訊ねてみたが、青年にもわからない。いや、青年こそわからなかった。どうして急にこんな冷たい態度を取られるのか。サイに直接訊こうにもサイはココリエと口を利くことすらない。


 顔を見て踵を返し、どうでもいい用事を入れる。なんてのも茶飯事になっていた。いい加減ココリエの心が本当に没してしまいそうだが、どうすることもできない。


 ルィルシエが代わりに訊こうか? と申しでてくれたが、きっとサイは答えない。それはカシウアザンカから帰った時にわかっている。だから、打つ手なし、だった。


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