鷹と悪魔の実戦式稽古


 さがり切る前にふたりはもうぶつかっていたのでケンゴクは内心「怖ぇー」とか思いつつさらに邪魔にならない位置までさがる。はじまったのは実戦形式での剣術稽古。


 挨拶代わりに一度武器を噛ませ、ふたりはそれぞれの間合いをつくって攻勢にでる。


 セツキの突きが連続で襲いかかるが、サイはひとつひとつ見送る余裕すら持って躱す。


 セツキの攻撃が変化。


 突きからくるりと穂先を反転。サイの顔を下から割りに動くが喰らう変態趣味がないサイは簡単に刀を斜めに構えて穂先を迎撃。


 上にあげるセツキの力と下におろすサイの力の拮抗は一、二秒ばかり叶って終わった。槍の穂先が地面に叩きつけられる。いったいどれほどの剛力なのか、穂先は地面に埋没してセツキの身動きが封じられた。これで終わりかと思ったケンゴクだったが、違った。


 セツキがサイの反撃とバカ力を考慮しない筈がなかった。槍の尻に手を当てて武器を急速変形させて槍の柄部分を刀の刀身にしてサイと再びぶつかる。


 今度は刀と刀のぶつかりあい。ふたり同時に相手を袈裟斬りにかけようとするが、ぶつかったのは互いの武器。サイのリギアは火属性でセツキの雷属性より威力強度共に劣る筈なのにまったく引けを取っていない。その理由はサイの法力の純度が影響している。


 この間の健診で判明したことだが、体内の法力に混ざる属性の比重パーセンテージがかなりおかしかったのでサイは何度も再検査にかけられて最終的に「いい加減にしろ!」とキレて検査の医師をぶん殴って診断書を書かせた。なんてことを自慢げに話してくれた。


 いやいやいや、なんでもかんでも暴力に訴えるなよ。しかも暴力とほぼ無縁のカシウアザンカで……というわけで、セツキのお説教を喰らったのだが、サイはいつも通り右から左でさらには「間違っていないのに何度も検査して時間と金の無駄」などと言った。


 ……ちーん。終了しちゃいましたね、あっはっは。と誰も笑わない感じに笑える珍事があったが、その時だされたサイの比重は闇属性百七十一パーセント、雷属性百十パーセント、火属性七十三パーセント。というかーなーりーおっそろしくおかしな結果だった。


 普通は、通常は、一般的なひとは比重が合計で百あれば戦士としてかなりの素質を秘めていて武術の研き方次第では強者になれる、とすら言われるのに……。そりゃあ、検査担当医が間違いを疑って何度も検査し、もう一度念の為言ったのがわかる、というもの。


 だいたい闇属性単品ですでに百をぶち破っているのがもうおかしい。あとのパーセントもかなりのものだ。セツキですら主属性の雷は六十二パーセントだというのに。


 サイの雷は純度が桁外れだ。そして火も。七十三パーセントもあればセツキの六十二パーセントの雷と渡りあえるのは自然な話。あと闇を混ぜているのでより強度はあがる。


 サイの絶妙な調整がなければセツキは最初の接触時に武器ごと両断されていた。ふと珍事とサイの異常さを考えているとサイが目で「まじめにしろ」と語ってきた。ので、どうでも思考強制終了。ふたり同時に武器を引いて今度は居合のように構えて振り抜く。


 目にも留まらぬ居合剣は奇妙な独特の音を立てて以降、刀の音が響くことはなかった。


「それまで!」


 奇妙な轟音は両者の得物が接触した時点で刃毀れの上、折れた音だった。お互いに力が入りすぎて武器の強度が足りなかった為のポッキリである。改めてケンゴクがこのふたりの恐ろしい技量に肝を冷やしていると、いつの間にか周囲が騒がしくなっていた。


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