悪魔さんは無害ですか?
ファバルはまだココリエが夏風邪ひいたらバカ説でうけていたが、サイに目でこれでもかと刺されるので懐から巻紙を取りだして門衛代わりの男に見せた。男はやっとサイの暴言から立ち直っていたので、書状にいろいろな汁が落ちることはなかった。
「ファバル様、ココリエ様、ルィルシエ様、サイ殿……健診はこちらに書かれている四名でお間違いないですね? ……えっと、サイ殿だけ追加依頼、と……確認しました」
「ああ、では通らせてもらうぞ」
「はい。ああ、只今正面は混雑しておりますので西口か東口からお入りになられると」
「……そうか」
案内を聞いたファバルが微妙な顔をしたが、サイが訊く前に王は移動を開始。方角的に東口とかいうのに向かっている臭い。
ついていくココリエとルィルシエにサイもついていく。途中何度もルィルシエがサイをちらちら振り返ったが、サイは無視を決め込んでいる。この国に来る道中にも散々絡まれたのだ。そりゃあ面倒臭がるのはわかるが、少しはこちらの心配を受けてくれ。
ルィルシエがココリエ、兄を見上げるも兄もなぜか微妙表情で訳ありを示してみせた。
なので、ルィルシエも察する。サイが無用な心配、そして鬱陶しく感じることでしかないのだと。だが、あとで聞きだす気満々だった。それくらい彼女はサイが好きだから。
大切な、姉のようなひと。
実際に姉呼ばわりしたらかなりこっぴどく叱られて罵られそうなので遠慮しているが、もし許されるなら「お姉様」と呼びたい。と、まあ、ウッペに仕える戦士たちの半数以上が「早まられるな! 自殺行為ですぞ!」なんて言いそうなことを計画中だったりして。
「門がいくつもあるのか?」
いつの間にかココリエの隣、ルィルシエをはさまない隣に来ていたサイが質問する。門なんてものはひとつでいくないか? と思っているのがビシビシ伝わってくる。
どうやらそっち方面も疎いようなのでココリエは今後の為にも教えておくことにした。
「救急患者、重傷者などが運び込まれた際、入口がひとつでは混雑し、それだけで手遅れの者がでてしまう。過去にでたことがあるらしいのでこの国に限って門は計四つある」
「搬入口、というわけか」
「そうなるな。多分正面が混んでいるのもこの近辺で戦が起こっている為だろう。南の方面は蛮国クドモストが苛烈な国政と戦を行うので緊迫している。常に、な」
「それを思えばウッペは平和な方、か」
「まあ、な。東の中では火種は多いが、クドモストが猛威を振るう南に比べれば平穏だ」
ふーん、とサイは興味があるのかないのかよくわからない反応。関心を寄せる事柄がかなり女らしくないのでそっち方面でもからかわれていることがあるが、からかったバカはすべからく瀕死に陥る。……いい加減学習してくれ、と思うのだが、面白いのはたしか。
面白い。無知で無垢な様が面白いのはそうなので瀕死者、主にケンゴクがサイをからかってしまうのはちょっとサイに悪いが仕方ない。どうせ痛い目に遭うのはケンゴクなので正直小耳にはさむココリエにはあまり関係ない。……たまに八つ当たりされるが。
その八つ当たりも鍛練の強度をあげるとかだったり、わざと組手で加減を吹っ飛ばす方面での当たりなのでそんなに困ったさんでもない。瞳に殺意がある時はさすがに遠慮して、加減してくれ、と頼むが……。
それ以外でサイがひとに無意味に当たることはないので無害主張。ただ、セツキはケンゴクを罰するにしてもやりすぎだ、と反論して無害論は叩き潰される。ぺっちゃんこに。
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