歳を考えてくれ……


「今日はもう休むだけか?」


「ああ。余と父上は遠方の盟国の王や知りあいに挨拶をしてからなので先に休んでくれ」


「できるか。私は己らの護衛について来たのだ。呑気に休むなどとアホの烙印ポンだ」


「いや、そう言っても……」


「なにか」


「その、サイは平気でもルィルは疲れ」


「サイ、健診用天幕で一緒にお父様たちを待ちましょ? また絵本を読んでください」


「……」


 サイに体力無尽蔵なそなたと妹を一緒にするな、なんて言いかけたココリエだが、ルィルシエはサイに絵本の読み聞かせをねだる。「これ、元気余ってね?」と、サイの目が語っている。ココリエも思わず言葉に詰まる。いつもなら長旅で疲労してぐったりなのに。


 それが今回に限ってどうした? と思ったが、そういえば今までの健診はセツキかケンゴクを供にして来た。なので、車内にいるココリエと一緒に遊んで旅路をすごしてきた。ところがどっこい今回はサイが一緒だ。遊び相手などそうそうしてくれる筈がない。


 だから、その分、大人しくすごしていたので元気なのかもしれない。額の瘤は痛そうだが、それ以外は元気そうだ。最近、胸焼けがするから、と言って我儘し、サイに病人食とかいう「うどん」をつくってもらっていたので体調を案じていたが全然不要だった。


 ……もしかしたらサイに甘える口実に体調不良を訴えていたのかもしれない可能性すら浮上する元気っぷりだ。お歳頃を考えてはしゃいでほしいものだ。いやマジで。


 というか、そろそろいい歳なのだから絵本は卒業してくれ。海外の未翻訳著書を読んでもらうのは楽しいのかもしれないがちょっとこどもっぽすぎる。読んでもらうにしてももう少し知識を蓄えるのに役立つ本を……。


 と、言っても今度はそんなつまらんもん読むか、とサイが反抗しそうだ。彼女は勉学を嫌う。戦闘に役立つ知識は積極的に吸収しているが、それ以外はどーでもいい。


 特にサイが手をつけないのは恋愛関係の本。もしくは友愛を描いたものだったりする。


 なんの役にも立たない。そんな認識がビッシバシ伝わってくるというものだ。


 こっちもこっちで歳頃なのだから多少はそういうことに興味を持ってくれ。気苦労するのはココリエたち、サイに惚れている野郎共の方なのだから。……困ったものだ。


 本当に、本当に困ったものだ。こうしている瞬間にも想いが募る。サイという女性を愛したい、と思ってしまう。いけないことなのに。してはならないことなのに……。


 王族の身でたかだか海外から来た傭兵の娘に想いを募らせるなどと罪悪に等しい。


「はぁ……」


「なにか、いきなりでかいため息」


「いや、うん。気にしないでくれ」


「?」


 気にするな、などと言われてもあんな深々とでかいため息を吐かれては気にするのが普通では? なんてサイが思っていると、先頭を歩くファバルがどうにも入口に到着したようで、石垣づくりの中に不似合いな、いかにも頑丈そうな鉄扉をくぐっていった。


 続くココリエとルィルシエについてサイも扉をくぐったのだが、途端、この国の洗礼を受けることになって平素の彼女には珍しく盛大に噎せて大きな隙を見せてしまった。


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