鷹と合流


 改めて兎を予備食として狩ってきておいてよかった。いくらセツキが鋭くともこんな木の根本にひそんでいるとは思わないだろう。それに、イークスに乗っているなら移動は速度がでているし、のっている。素通りの図が簡単に浮かぶという……。


「サイ?」


「!」


「サイ、そこにいるのですか?」


「セツキ?」


 気づく筈ない。そう思っていただけに予想外だ。男の声が確認に声をかけてきた。


 これにサイは思わず相手の男の名を呟く。すると、次には男がひとり大木の根本に開いた洞穴に滑り込んできた。予想通りのその姿。黒髪に黒真珠の瞳。洗練され研かれた美貌の男。ウッペ国が誇る柱、鷹のセツキが緊急ねぐらに滑り込んできていた。


「サイ、無事ですか?」


「……私、か?」


「他に誰に訊きますか」


 こんな時にお得意の必殺技とはいえボケていないでしっかりしてくれ、と言わんばかりのセツキにサイはなぜか、なんだか無性に嬉しくなってしまった。


 あまり得意でないが、セツキがサイのことを案じてくれた。最優先としてココリエはどこだ、と訊かなかった。たったそれだけなのに、心細さが去っていくようだった。


 が、すぐセツキはサイのそばで眠っているココリエに目を留めて驚きに目を見開いた。


 誰がどう見ても今のココリエは異常だ。戦国一貧弱でも最近はサイにこれでもか、おらおら! としごかれ、時たまやる森バルもあわさり気配に鋭敏になっている。


 なのに、こんな近くでセツキとサイが喋っているのにピクリともしない。これに驚くなという方が無理難題というもの。サイは要らん心配でセツキが気を散らさないで済むように足を組み替えて左足をそれとなく隠し、セツキに視線で「困った」と伝えた。


 それだけでなんとなしの事情を察してくれたセツキはサイにお説教しなかった。どうしてすぐ合流しようとしなかったのか、とかなぜ樹海の奥のこんなところにいるのかとか。いろいろともの申したい気持ちはあるのだろうが、ひとまず横に置いてくれた。


「なにがあったのです?」


「うむ。簡単に言えば呪いだ」


「呪い?」


「ココリエが呪われている。……で、そして、あの、アレだアレ。アレなのだ」


「……それでわかったら私はある種の異常者ですよ、サイ。きちんと報告をしなさい」


 ダヨネ。とサイが思ったのは内緒。これで察してくれたらそらセツキは変なひとだ。だが、きちんと説明するのは恥ずかしいし、怒られないか不安だ。心身共にキている時にセツキの説教は勘弁願いたい。それこそ、呪いなど目でなく廃人か直行ですろーど。


 サイの顔に熱が集まる。カァアア、と赤くなっていく女戦士にセツキが怪訝な目を向けるが、唐突にサイが懐へ手を突っ込み、なにか取りだしてセツキの胸に押しつけ、それだけでさらに顔の赤を深めながらそっぽを向いて靴を履きはじめてしまった。


 いつものサイらしくない態度と様子。これにセツキははて、と思いながらもサイが押しつけてきたものを開き、中身を読んで、飲み込んでサイの態度に理解を示した。


 鷹は少女の羞恥をつつかなかった。


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