鬼にお願い


「時に、今日は朝、城下の見まわりがあるのだが、どうしたらいい? どっち優先?」


「え? そう、だったか?」


「お前がおおまかな予定を組んで、私がうつし、カザオニが管理している。間違いない」


「そうか。ふぁあ、では、こんな顔と体たらくではいかんな。少し寝よう」


「残りは午後と明日、あー、明後日にもわけてするでどうだ、セツキ? 妥当であろう」


 サイからの嬉しい提案にココリエは朝餉を食べながらもうすでにうつらうつらしているので、視察を優先する気でいるのだろうが、セツキがなんと言うかによって……。


 ちらっとサイがセツキを窺うとセツキは思案顔でいるが、ココリエが終えた仕事を回収している。器用な男だな。と、思っていると考えがまとまったのか、飯の最後の一口を食べ終わったココリエに向き直った。


「では、仮眠をどうぞ。城下を視察なされたら戻られて湯を浴びてください。雨天で風邪を召されても困ります。あとはサイの言った通りの予定組みで結構です」


「うむ。話が珍しくわかる」


「一言余計です。私も疲れてきましたので休憩しようと思っていたところです」


 要はちょうどいいタイミングでサイがことを言いだした、というやつだ。でなければサイの案をこうもあっさりと通してくれるわけがない。まあ、たしかにセツキもいつもに比べると重心が安定していないというか若干ふらふらしている。


 ……ファバルは本当にちょっと体罰が必要なんじゃないだろうか? と思ったサイが手を打って合図するとすぐ、カザオニが背後に控えた。サイは鬼にお願いする。


「ココリエとセツキの布団を頼む。あ、片づけながら。私は安眠に効く茶を淹れてくる」


 カザオニに一通りやること、やってほしいことを言ったのだが、カザオニは超不服、という感じに唇を尖らせて「えー」とか「ぶーぶー」みたいに無言でブーイング。


 カザオニとしてはなぜか気に喰わないココリエやセツキの為に動きたくない。


 だが、主たっての願いとあっては断れない。ってか断りたくない。でもやりたくない。このジレンマ、どうしたらいいのっ!? がブーイングになっているご様子。


 なので、サイは追加でひとつ。


「では、先にファバルがサボってないか見てこい。怠けていたら蠟を顔に垂らしてやれ」


「待ちなさい、サイ。なんですか、その」


「え? もっと過激に?」


「なんでそうなるのですか!?」


「ふむ。不思議だな」


「ええ、本当に」


 サイのありえねー提案にセツキが待ったをかけたが、鬼はもうそこにいなかった。


 早速主の提案を実行しに動いたらしい。つまり、王の仕事の進捗具合でいわゆる女王様のSMプレイな罰をくだす気でいるのだ。セツキがこれはまずい、と腰をあげかけた瞬間、遠くから、上の方からえも言えぬ悲鳴が聞こえてきた。……遅かった。


 でも、どうやら本当に怠けていたらしい。部下や息子がほぼ徹夜で頑張っていたのに。


 ならば、これは妥当な罰だな、うんうん。と、サイが思っているとセツキが頭を抱えていた。なんだ、不満があるのだろうか。やはりもっと過激かつ苛烈な罰が……。


「違います」


「なにも言って……」


「いなくてもあなたの考えていることくらい簡単にわかります。わかっていないようなので言いますが相手は一国の王ですよ? なにをやらせているのですか?」


「体罰」


「そうではなく、立場があるのですからそういう阿呆な罰は自重し、自重させなさい!」


「そうか? いい感じに活が入ると思うが」


 ダメだこりゃ。サイと話していると異次元に飛んでいきそうな気がしてならないセツキである。なんだか、最近サイは過激に拍車がかかったような気がするのは気のせいだろうか、とセツキはひとり考える。これが心を許してきた証ならすごくいやだ。


 とりあえず、王の顔面が無事かどうか確認しにいくのにセツキは退室していき、サイも茶を淹れる為だろう、部屋をでてきた。が、セツキがもう一度お説教を吐こうと思った時にはもうそこにいなかった。


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