独特快復食
「サイ? そなたなにを食べているのだ? どう見ても猪の肉などには見えないのだが」
「カザオニ特製兎の丸焼き。塩味だけだが適度に雑で男の料理そのまま。が、美味しい」
「そうか。兎は皮を剝がれるとこうなってしまうのか。できれば知りたくなかった」
シレンピ・ポウ王妃のウッペ王暗殺未遂事件から早三日。サイは丸一日は寝ていたが、起きてからは体を癒し、力を取り戻すのにそうした食事をとっている。
魚などでは物足りないので肉を中心に野菜も鉄分を豊富に含むものや、吸収を助けるものを積極的にとっている。肉はたいがいサイの影、カザオニが狩りにでて獲ってきた新鮮なものばかりでそのままカザオニが調理してサイに提供している。
中でも兎料理が彼女のお気に入りらしい。なんでも元いた世界、国? で時期にはジビエ料理用に売りだされることもあったし、山籠もりで修行していた時の主菜でもあったとかなんとか。だが、ココリエには見慣れない兎の丸焼きは非常にグロい。
それをさも美味しそうに貪って食べているサイが獣か野蛮人に見えてならない。
カザオニは主が喜んでくれることが至上の喜びなので、また明日も兎を狩ってくるのだろう。サイの力が戻るまでに兎さんが全滅しないかとっても心配である。
奇跡的に胃を外れていたのでこれだけ盛大に食えるのだが、もしも臓器をひとつでも掠めていたら危なかった。それを思うと贅沢な心配、なのだろうが。
ココリエが思考遊びにはまっているとサイが食事を終えた。満腹満足といったふうな女は兎の残骸、骨に残った肉のカスをしゃぶって食べている。……先にも増して猛獣チックに見えるのはきっと気のせいではない。ああ、でもこれも一種の食物連鎖……。
「ココリエ、ここにおるか?」
「父上? はい、おりますがどうか」
ファバルの方から出向いてくるとは何事だろう、と思ったココリエだが、すぐ察した。
サイも肉を残らずこそぎ取った骨を皿に放り込んで部屋に入って来た王の顔を見る。ファバルはサイが元気に食事をしていたらしいことに笑った。
サイが目覚めてすぐ見舞いに来てくれたファバルは頭をさげ、サイに感謝の意を示し、また今度、いつか城下に遊びにいく時、ココリエに持たせるからお小遣いで好きな茶葉を好きなだけ買ってこい、とも言っておいた。
サイはその時、平静を装っていたが、瞳が輝いていた。本当に安いお礼で満足してくれる安あがりな娘だ。しかも、あまり高価なものを買って飲んで舌が肥えてはならないから、というよくわからない理由で買ってくる茶葉候補もそんなに高くない。
本当に超経済的な傭兵だ。まあ、かといってあまり過剰にこき使ったらキレられるだろうからほどほどにしているが。それでもお財布に優しい戦士である。
「あの蜘蛛に動きがあったか?」
「やれやれ、私から言わせてくれ」
ココリエと同じ、以上に察しのいいサイの言葉にファバルは苦笑い。しかし、王はすぐ表情を引き締めて話をはじめた。話題はサイが言った通りシレンピ・ポウの動向。
事前に最初の見舞いの際、ファバルからあのあとのことを聞いていたサイは蜘蛛の復讐を懸念し、カザオニに狩りついででいいので周辺諸国の様子を探るように頼んでいた。先ほどの報告ではなんとも不吉なことが含まれていたので言っておく。
「リポード、シァラとかいう国の戦力は?」
「! ……。ああ、カザオニか。そうだ。シレンピ・ポウはその二国と同盟を結んだ」
「娘共を使ったか」
「だーかーら、先に言うなて。まったく……。それで三国連合で今ここへ向かっている」
「ま、待ってください父上! たったの三日で同盟し、戦を? いくらなんでも早すぎ」
「そうだ。早いにもほどがある。だが、来るのだ。そこは変えようがない。認めてくれ」
戦になる、これを認めよと言われ、ココリエは無意識で戦にならないようにと願っていたことを突きつけられた。なので、頭をさげて認める。だが、次にはサイを見た。
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