唐突に問われ……


 王の行動が今ひとつわからないながらサイはすすめられたところに座った。ファバルはサイがお使いついでに持ってきてくれた休憩の茶を飲んでほんわかしている。


 していたのだが、唐突によくわからない、サイにとっては「は?」というようなことを訊いてきた。小さな声だったがたしかに王は言った。サイが繰り返す。


「ココリエが、好きか?」


「そうだ。好きか、サイ?」


「イミフ」


 今度のイミフはファバルの質問が持つ意図をはかりかねてのイミフ。ファバルはことさらに悲しそうな顔をする。先ほどよりは柔らかくなってもそこにある強い悲愴。


 どうしてそんなものを向けられるのか、どうして今になってココリエ、上司のことが好きかなどと訊ねてくるのかサイはわからない。女戦士が首を傾げるとファバルは短く息を吐いてサイの頭の中にあるものに訂正を入れる。


「違うのだ、サイ」


「む?」


「上司だとか雇い主だからとかではない。ひとりの男としてココリエを好いているか?」


「余計にわからなくなったのだが。……。人間的に、ということか?」


「……。そうだな、まずはそこでいい」


「嫌いではない。だが、苦手だ」


 ばっさり切り捨てなさったサイにファバルは苦笑。人間的に見て嫌いではないが、苦手って嫌いってことなのではないか? と思って息子を不憫に思った。


 わかりやすいことこの上ない。ココリエはいつもサイを目で追っているし、他の男が近づくことに難色を示している。特に自分よりまさっている者への敵愾心は半端ではないことからしても想いはファバルが想像しているよりもずっと強いのだ。


 ただ、当人が自分の気持ちに気づいているかが微妙なので、相手の女の気持ちを探ってみている。結果、とても残念なお知らせを息子にしなければならないようだ。ってことでファバルの苦笑いは深くなる。サイはファバルの笑みがイミフで瞳をゆらり。


「ココリエが、苦手か」


「……。アレといると調子が狂う」


「……は?」


「ココリエといるとどうしようもなく心が揺れる。あの日あの時失ったと思っていた感情が動こうとしていて気持ち悪いのに、それに身を任せたい自分がいる」


 サイに気持ちはない、想いはない、そう思って安心したところへサイが爆弾発言。ココリエといると調子が狂い、感情が動きたがることを不思議がっているようだが、それは間違いようもない想い。サイの中にある大切な気持ちだ。


 不意討ちを喰らったファバルは騒ぐ心臓を落ち着けてこれで最後と確認を取る。


「サイ、ココリエがキュニエ王女と一緒にいた時、その、そなたはどう感じていた」


「? あのキンキン声の目障り小娘がどう」


「いいから答えろっ!」


 サイの目がつい、驚きで点になる。


 あのいつも温和なファバルが声を荒らげたことに驚きを隠せないらしい。だが、今はそんなことどうでもいい。どうしても、これだけは確認しなければならない。


「次女とココリエが一緒で?」


「そうだ。ふたりが酒宴で楽しんでいる時、そなたの感情はなにを訴えた?」


「しばし待て。急に言われても困る」


「しばしはいくつ数える間だ?」


「なんなのか、いったい」


 サイはうんざりした、とばかりだがファバルの真剣な瞳に重要を訊かれているというのはわかるので記憶を探る。正直、あの時の、昨日の宴ではデオレドの相手が忙しくてそれどころではなかったが、ココリエとキュニエが一緒にいてどう思ったか……。


 仮の話として、ココリエがキュニエに笑顔を向けている、と想像してみた。……。するとどうしたことか、腹立たしいというか、むかつくというか、気分が悪い。


 苛立ち任せにココリエをしばいて笑顔を引っぺがしてやりたくなる。撲殺しそうだ。


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