妄想、なのに気づかぬ悲しき想い
「妄想でいいか?」
「なんでもいい。答えてくれ」
「ココリエ撲殺事件が発生すると思う」
「ココリエがキュニエ王女と仲良くするのが気に喰わず、ココリエに当たる、か?」
「んぅー……? そんな、感じ、かもな」
いつものサイからしたらかなり歯切れ悪く答えたが、彼女の正直な気持ちだった。
ココリエがあのやかましい金切り声のうっざい小娘と仲良くしているなどと……、どうして許せようか。許したくない。だが、疑問だ。どうしてルィルシエには覚えないのにキュニエには苛立ちを覚えるのか。同じようにうるさくて鬱陶しいのに。
キュニエが他人だから、ココリエの親しいひとではないから、彼の領域に踏み込ませたくないと思ってしまっているのか。いずれにしろ、変な気分だ。
サイが自身の中の変な気分に首を傾げているすぐそばでファバルは頭を抱えている。
気持ちはないと思っていた。いや、そうであってくれと願っていた。ひとの不幸、ある意味で不幸を望もうとした、これは罰なのだろうか? 息子ココリエの気持ちは絶対としてサイにも想いがあるかもしれないというのはとんでもないことである。
出身すらさだかでない傭兵娘が一国の王子に想いを寄せるなどとあってはならない。普通ならば露見した時点で傭兵を斬り捨てるのが一般的だがどうにも躊躇われる。
ずっと、ずっと長い間孤独だった。ひとり暗い果てのない闇の中でいつ殺されるかと怯え、苦しみ、大切を喪って闇世界の深みに飲み込まれても生き続けてきた娘。
一度も誰かに心許したことのない。誰も信じたことがない。誰かに頼ることもできなかった女の子は成長しても体だけ。心はずっと幼いままであり、その気持ちと想いは純粋そのものだというのに踏み潰さなければならないなどと不憫にすぎる。
「この世の中はままならないものだからこそ上に立つ者は、責任ある者は清濁併せ呑むことができなければならない」と、ファバルの父、先々代王フィニアザがファバルの先代王、兄フォノフに言っていた言葉。それがまさか自分に飛び火してくるとは。
いや、王という座をいただいた時点でそれは当然にファバルにも当てはまる事象だったのにファバルは失念していた。後悔先に立たず。この言葉が似合う状況が今以上にあろうか、とファバルは深く息を吐いた。そして対面に座っている女を見る。
とても美しい姿をしているが当人は悪魔を自称している。実力のほどもまさにそれであるが、それ以外は非常に幼い娘だ。ルィルシエの方が精神面で大人と思えるくらい。
「わかった。さがっていい」
「そうか」
サイは解放されてほっとしている。慣れない質問と空気に疲れたのかすぐ退室した。ひとり自室に残された王は自ら生んだ懊悩に頭を抱えつつ、仕事に追われてすごした。
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