王子におめでたい話


「そうか。とうとう《戦武具ソクリメッソ》まで達したか」


 朝の陽がのぼりはじめた頃のこと。場所は広間。王族と主戦力たる武士、そしてなぜか知れない招待を受けた傭兵が一緒に食事していた。一足早く食べ終わった武士、セツキの報告にここ、ウッペの王ファバルは感心したように吐息を零した。


 会食の席ではあまりお喋りの声はない。どこぞの王女が騒ぎそうだが、さすがに厳かな会食の席ではしゃぐわけにはいかない。とは、承知しているようだ。


「いやぁ、こうなってくると怖いのう」


「漏るのか」


「この歳でそう簡単に漏らすか」


「聖上、お食事の席でございます」


「わかっとるわ。だが、サイが乗せるから」


他人ひとのせいにしないでください」


 食事の席で漏らすなどと下品なことを言った王にセツキが説教を飛ばす。先に言ったサイは叱っても無駄だと知れているので無駄をしないが、一応きつく睨んだ。


 だというのに、サイはセツキの睨みを完全にスルーして食後の茶を淹れている。背後にはカザオニの姿。主のそばにいて鬼は心底幸せそうな雰囲気を放出中。


 カザオニはいろいろとサイに尽くそうとしているが、茶の腕は壊滅的なので、こればかりはサイも遠慮して自分が茶を飲んで寛いでいる時に邪魔が入らないようにしろ、と言い聞かせて納得させた。茶の時間は至福の時間だからとかなんとか適当こいて。


 なので、カザオニはサイのティータイムには「背後で控える」を守っている。


 主からの命は仕える者にとり至上の喜びだから。それ以外、サイはカザオニになにかと様々な雑用を頼んでいる。朝の点灯から夜の消灯はもちろん。配膳のお手伝い……これはカザオニが頼み込んだ。いつどこで毒が盛られるかわからない、と本気で心配して。


 傭兵に毒盛ってどうする? とのまっとうなサイの反論は無視。鬼は譲らなかった。


 それほどにサイを神聖視している。このひとこそ至上の主。このひとがいればそれだけでいい。このひとの為ならなんでもする。そんな雰囲気むんむんだ。


「ところでココリエ」


「……」


「ココリエ?」


「? え、あっはいっ!?」


「どうした? ぼーっと、というかなにやら恨めしそうな目をしておった気がしたが」


「な、なんなななんでもありませんっ」


「……。そうか。ならばちょいとお前におめでたい、素晴らしいお知らせだ」


「はい?」


 食事を終えてサイがついでで淹れてくれた茶を飲みながらむすっとしていたココリエは父親に声をかけられて素っ頓狂な声をあげたがなんでもないと言って逃れ、ファバルも深く追求せず素敵なお知らせ、とやらを言うのに居住まいを正した。


 これにココリエは疑問顔。はて、と思いはしたが、父親から重大なお知らせと聞いてココリエも居住まいを正す。息子が準備できたのを見、ファバルは咳払いし告げた。


「お前に、見合いの話が来ておる」


「……。……は?」


 ココリエの時間が一瞬以上停止した。


 そして、吐かれる疑問符。これを聞いてファバルは盛大に噴きだして笑い転げた。ひーひー言いつつ、噎せながらの大爆笑。だが、これを諫められる勇者は……。


「うるさい」


「サイ、その口はなんですか」


「口は口である。ココリエ、口を閉じよ。ここは間抜け面披露会場ではない」


 散々な言いようである。だがしかし、サイの言うことも一理ある。それくらいココリエはひどい間抜け面をしている。鳩が豆鉄砲を食ったようと言うが、どちらかというと本物の鉄砲を喰らったような呆けぶりだ。


 ファバルはかなり大笑いしまくっていたが、そばに控えている鷹が咳払いの音を立てたと同時に笑い終わりついでに息子へ呆れたような目を向けた。


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