まじめな話とお茶な話
「ココリエ、お前はいくつになったと思っておるのだ? 私など十の頃から話が」
「それはその、父上は才能豊かな方だっただけで、私は、その、才能などというものは」
「そんな成分がどこにあるか」
ぐさっ、とココリエの心臓に短剣が刺さる音がした。ココリエとファバルの話に割り込んだ女戦士は今朝の体術鍛練の結果も含めて妥当な言葉を寄越したつもりなのだが、その現実がどれほどにココリエを刺しているかわかっていない。
残酷をそうと思わずにやってしまうので性質が悪い。いや、それ以前に暴言癖がひどいというか、相変わらずだ。
ただ、人間慣れる、あまりに高頻度で起こるととても慣れてしまうのでもはやその程度でココリエは苦笑いもしない。いやまあ、傷つきはするが……。努めて気にしないようにしている。気にしても胃に穴が開くだけだ。
それと今はそれどころではない。ココリエに見合いの話が来ている。これに反応を示したのは部屋にいるほとんど全員だが、約二名は無反応だ。
サイとカザオニはココリエの見合いに興味がまるで、というかまったくないらしく茶をすするのに専念している。側近娘の態度に王は苦笑し、鷹は苦々しい顔。
ルィルシエは驚き、ちらっとサイを見た。ケンゴクは口笛を吹いている。
「聖上、まことの話で?」
「私はこのようなことで嘘を言わぬぞ」
「それは、喜ばしきことで」
「ああ、まったくだ。だからココリエ、いい加減なにか言ってみてはどうだ?」
ファバルに指摘されてココリエはうぐ、というような顔をしたが、なぜかルィルシエ同様ちらりとサイを窺ってから恐々父親に応えた。声には驚愕がある。
「私のような未熟者に妻を取れ、と?」
「うぅむ、気に入られればよいなぁ。いや、お前ならば絶対気に入られるから心配は」
「いやあの、そうではなく時期的にどうか、と。昨年あと二、三年様子見すると言っておられたではありませぬか。なのに、その、せ、性急すぎませぬか?」
「だって、話が来たんだもーん」
「クソ腹立つからやめろそれ、バカ王」
ああ、暴言の祭典。と、言葉が部屋のウッペ生まれ育ちな者たちの頭に流れていった。
仮でなくても王に向かってクソとかバカとか言っちゃいけないランキング上位の単語たちである。サイは欠片も気にせず、カザオニに追加の湯を頼んでいる。鬼は一瞬だけ消えてすぐサイの背後に戻ってきた。サイはその湯で部屋にいる他の面々にも茶を淹れた。
淹れた茶をカザオニに配らせて自分はゆったりと自分の茶をすする。ココリエの見合い話など他人事以下の扱いで女戦士は食後の茶に舌鼓を打つ。瞳には幸福。
「……ん? こりゃ、美味いな」
「たしかに。サイ、まさかまたココリエ様に茶葉をたかったのではないでしょうね」
「一度もない罪を捏造するな」
ごもっとも。帝都でココリエに茶葉を買ってもらったがアレもサイが頼んだ、たかったわけではない。ココリエが勝手に好きなものを選んでいい、と言ってくれただけだ。
それにこれは、この茶に使った葉はそんな高価なものではないのでとんだ濡れ衣だ。
「ハシバナの茶葉だ。この癖のない素朴さが気に入ったのでちょっと多めに買った」
「ハシバナ? そんな安物をここまで?」
「茶葉に謝れ、セツキ。産地の人間にも」
「サイ、おかわりください!」
「お前は遠慮しろ。誰の小遣いで買ったと」
「では、わたくしからもお小遣いを」
「やめろ。私の矜持に大傷がつく」
主にココリエからのお小遣いで生活しているサイなので、それを知っているので、ルィルシエが茶のおかわりの代わりに茶葉を買う為のおぜぜをあげる、と言うのをサイは全力で遠慮する。たしかに歳下の娘にお金を恵んでもらうのは矜持が悲鳴をあげる。
仕方がないので、ルィルシエにおかわりの茶を淹れる支度をはじめたサイの無表情には本当になにもない。ココリエが見合いしようとどうでもいい。
仕事に支障がなければどうなろうと、どう転ぼうとも……。別に興味ない。
サイの無関心にココリエはあからさまに傷ついた様子でいたが、サイはそんな雇い主を疑問視こそしてもそれ以上はない。関心なく興味なく、これは、クる。
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