悪魔娘の反則急成長
「サイ、あなたの方はいかがです?」
「? なにがか」
「鍛練の進み具合を訊いているのです」
他になにがあるんですか、とセツキの顔に書いてあるが、サイはなんでそんなもの訊かれるのか、そこからわかっていない。んなもん、セツキには関係ないと思っているのは明白ってか今現在瞳に書いてある。「なんでお前にそんな報告……」と。
「武将頭としていざ戦となった時の戦力を把握しておきたいのだ、と思うぞ、サイ」
「最初からそう言え」
いや、普通に察しろ。なーんて考えたのはココリエだけではない筈だ。セツキは頭を抱えてしまっている。なんて阿呆なんだ、この女……とか、思っていそうだ。
セツキからの質問。それの意味を理解したサイは右手を胸の前に掲げてしばらく。
闇が溢れた。黒く、暗く、底のない闇。それは凝固し、形をなしてゆき、一振りの刀が現れた。刀はジュウジュウ、と威嚇するよう、焼ける音を立てている。
「……え?」
「む?」
「あの、サイ? それはまさか」
「ふむ。カザオニは《
「いえ、あの、どうしたとか」
ココリエはもちろんセツキも信じ難いものを見ている、という顔でいる。
女の創造したものを信じられない、とばかり。ついでに女の方もなにか、化け物発見な目で見ている。……超失礼だが、仕方がない。ふたりの反応は当然だ。
《
天才と言われ、武の才に恵まれていたセツキですら習得するのに数年を要した。だというのに、サイは初春に触れてから合間で教えられていた程度のことでもう究極奥義に到達した。もはや反則とか以前に成長速度の異常さが怖くなってくる。
「それは、火の属性ですか?」
「うむ。安定剤に闇を使っているので黒い炎だ。結構気に入ったので名も与えている」
「そこはどうでもいいです。いったいいつの間に……たしか前に教えた時は」
「あの腐れ蛇のところから帰ってずっとカザオニに暇時間は見てもらっていた故」
なるほど。あの戦国の悪鬼が指導者役を買ってでたのか。ならば、この急成長も……いや、例えそうだとしても、おかしい。カザオニがどんなに手厚く教えてもそれを習得するにはサイの努力と才覚が必須。むしろ、カザオニの教えはおまけと考えるべき。
やはり、サイの才能が怖くなってきた。
こんなのはありえない。普通には、絶対にありえない。セツキですら数年かかったものをたかだか三、四ヵ月で習得するなどとあってはならない。
ココリエがあまりのことに呆然としているとセツキも同意見なのか、非常に渋い顔をしてみせた。ご機嫌に障った臭い。まあ、だからといってサイはなにも思わないが。
「あなたは、いったい何者ですか」
不意に、セツキが口を利いた。サイに向かって何者か、と問う。そう質問せずにはいられないのはわかるが、返ってくる答が今もうすでに怖い。しかし、気になる。
サイは、何者か。ずっと、疑問だった。疑問だったのだが、迂闊に訊けずいた。返される答に予想がつく、というのとなんとなく、知ってしまっては関係が壊れてしまいそうな気がしたのだ。今のままがいい。思うからこそ、訊けなかったのだが……。
「悪魔である」
返された答はやはり予想に違わずだった。中庭で男ふたりがっくり項垂れましたとさ。
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