参章――クィレビエ・ネンテ

ねえ、教えてよ


 ふとした時に、思うの。どうして……って。


 おかしいかな? 変ですか? ねえ……教えて、サイ。私の大切な、ひと。この世界で一番大事なあなた。


 どうしてでしょうか。


 これはどうしてなの。なぜ、あなたはそんなところにいるのですか? 


 群雄割拠の戦国乱世などに。……なぜ。わからない。わかるわけない。


 外から、ある意味で中から見ている私もわからないからきっとあなたも知らない。


 サイ。私の宝者。物じゃないよ。あなたはひとだもの、ね? ねえ、どうでもいいことの代わりに教えて、サイ。


 いったい、いつまで、どうしてあなたは悪魔で在り続け、在ろうとするの?


 そんなふうに思わなくていいのに。そう思う必要ないのに。なぜそんなこと……。


「や、めて……」


 やめてください。お願いよ。どうして自分で自分を追い詰めるのかな、サイ。あなたになんの罪がある? ない。ないよ。ないの。それはね、あなたの偽造なんだよ。


 あなたは自分で罪をつくってかぶっていく。贖罪を渇望する。ある意味、自傷なの。


 でも、もしも自己贖罪するサイを笑ったら、私はを許さない。……殺してやる。


 あなたが選んだそこは荊棘いばらの道。あなたはなにもない。靴すらないから剝きだしの裸足は血まみれる。でも、しっかりと棘を踏んで前へ進んでいく。


 力強くうつる前進。けれど、幼いまま成長できないその心は悲鳴をあげている。誰も救わない、誰にも顧みられることがない、誰も本当には愛してくれない。


 なにもないサイ。すべてがあった私。対極に在るふたり。でも、最も近しい者として在った私たちは心から通じあっていた。そして、だからこそ、それぞれに至上なる存在を違えた。そのことがあなたを傷つけている。でも、私はだけは譲ることができなかったの。


「ごめん、ね……サイ、ごめんなさい」


 悔いている。激しく悔いて無念に思っている私。醜くて愚かしい。他に選択肢はあった筈なのにどうしてしたのか今でもわからない。だけど気づいた時もう、私は……。


 私にとって瑣末。なのに、それはサイにとって大事。……あとで知った。間抜けね。


 取り返しがつかない状態になってはじめて知ったわ。知ってしまったことすら悔しかった。いっそのこと知らずに、知らないフリで素知らぬ様で在れたなら、よかった。


 後悔して、苦しくて、でももう私は泣くことすらできないので、この悲しみが他人に伝わることなどない。けど、サイならいつか気づいてくれる。だって、だっ、て……。


 サイ。大切で大好きなサイ。あなたの為なら私はなんでもする。あなたさえ、幸福で在れたなら他の幾億人がどうなろうとどうでもいい。あなたさえ幸せであなたにとって新しいが今、隣に在るのならば、私は……私、私は……私すら、消して、みせるわ。ねぇ、――。


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