いちおー訊いてみとく


「どうした。なにを不機嫌に」


「え、あ。いや、余は別に不機嫌になど」


「その眉間の皺により説得力が皆無になっている」


 言われてココリエは自分の眉間を触ってみたがたしかにサイが言うように、サイが指摘するくらいには深い皺ができている。知らず知らずでも、こんなに不愉快な感情は今まで抱いたことがない。ココリエは困惑した。どうしたというのか、と自身に問いかけるが、答は返らない。


 自問自答が返答なしで強制終了してしまったのでココリエは不完全燃焼、というか疑問が焼却できなかったのでますます不機嫌、そうと自覚せず不満を積もらせていく。


 そのせいか、声が暗さと苦々しさを帯びていく。


「サイ、ユイトキとなにを話したのだ?」


「そのようなこと、訊いてどうする」


「別にどうもしないが、気になって困る」


「本当にあまり中身がない話しかしていないのだが、そうだな……ふむ、カグラのことを話したくらいである」


「え?」


「アレは立派な王で戦士であった。初心を忘れない心がけもひとりの戦士として理想にしたい」


「ちょ、待った」


「む?」


 思わず、ココリエはサイの白状を止めに入った。


 ちょっと、確認したくなってしまったのだ。


 それは重要項。てゆうか、話が盛大にずれている気がしてきたので一応確認してみることに。


「サイはユイトキとふたりだったのだろう?」


「ん? そうだが?」


「……あの、わざと話をずらしている、のか?」


「その面倒をして私はなにか楽しいのか、阿呆」


 暴言が飛びでたがココリエは乾いた笑い。同時にユイトキが憐れに思えてきた。これは惨い。


 好きな女と一緒にいたのに、想いを告げるどうこうどころか今は亡き主君の話をして終わったとか。わざに時間を見つけて連れだしたのだろうに、無念だな思った。


 ユイトキの無念さをココリエは憐れみ、そっと心の中で合掌しておいた。これは、サイに想いが伝わるには万年どころじゃなく途方もない時間が要りそうだ、と。


 こんなでは、サイにまともな「好き」を言うのにも相当苦労しそうだ。ココリエにその予定は今のところ、というか今生ではありえないのでどうでもいいが、恋をするにあたり、サイという女は惨くて残念すぎるな、と思われた。だが、これだけ聞ければ充分だ。


「……わかった」


「なにがか」


「ユイトキとはなにもなかったし、今後もない」


「よくわかったな。角糖やろうか?」


「蟲や馬ではないのでそんなもの喜ばない」


「うむ。冗句である」


 それは本当か、本当に冗句なのか? とは訊かないでおいたココリエは話を改めるように咳払いをしてサイに笑いかける。青年の表情にはなぜか安堵がある。


「ルィルには余から言っておこう。お前が思っているようなことは一切ないので今後、サイにその話を振るな、と」


「うむ。感謝の気持ちにセツキのとっておき茶葉を少々ばかしちょろまかしてきてやろうか?」


「サイ、そなたそんなことよくできるな。余だったら考えただけで恐ろしくて眠れなくなるぞ?」


「根性が足らぬ」


 それは根性の問題じゃない気がしてならないココリエはとりあえず曖昧に笑っておいた。


 サイは首を傾げていたが、仕事が終わったことをセツキに報告するのにココリエから決定文書や上、ファバルへの提出物をもらってお使いにでてくれることになった。


 彼女がその帰り道にセツキの茶葉を本当にパクってくるかは謎だが、ココリエはなにも聞かなかったことにした。聞いた聞かなかったとかの話だけでもお説教がくだりそうだし、その茶が飲みたいかはサイの気分次第だ。


 ただ、ココリエは不思議な気持ちでいた。もやもやする。サイが男に言い寄られるのがなぜか耐え難い。もやもやの正体にココリエが気づくのは少し、先のことだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る