一気に王都まで
「サイ、そなた山道も楽々だな」
「森林山岳にこもっていた時期もあった故」
「それは頼もしい。よーし、飛ばせココリエ!」
「父上、危ないですのででないでくださいっ!」
身を乗りだすの危ない言ったココリエだったが実際はあまり危なくもなかった。並走しているサイは先に関が見えると一気に加速し、櫓を倒壊させ、門を破壊し、見張りたちを叩きのめしていく。ほとんど緊急徴兵で集められた農の民たちだったのでサイはとても退屈そうだった。
退屈そうなサイが先導し、男ふたりが乗った車が猛速度で走っていく。それから一時間ぶっ通しで走っても車は速度を落とさない。イークスたちも全力で走らせてもらえて嬉しそうなのでそのまま突き進み、森という悪路を抜けてとうとう車はセンジュ王都に繫がる街道に抜けた。
街道を歩いていたひとたちは暴走車に驚いて道を開けてくれるが、サイが並走しているのを見て口をあんぐり開けている。人間に許された速力を超えている彼女の脚力に驚いているあまりその車が向かう先を見ていないが、王都への門を守護していた者は驚いて門を閉めにかかる。
しかし、閉門作業よりもサイの拳骨の方が数万倍は早かった。サイの拳骨は閉門しようと微動したその建築物の柱に一撃でひびを入れ、一本丸々粉々に破壊した。
拒む為の門は特別仕様になっていて並大抵の攻撃は通さない。それも破城兵の破城槌を、だ。
三十年ほど前、カグラがゼブゼラシュを落とした時に建築された当時には珍しい設計のものだったが、それはセンジュを侮って攻めてきた者たちを拒み、敗北させてきた拒絶防御の結晶。センジュの象徴であり、ある種の名物だったそれもこの日、壊れた。女戦士の一撃で門は崩壊。
物見台にあがっていた者たちが慌てておりようとするが間にあわず落下していく。落ちた者は崩壊する門の下敷きにならないように逃げるが、逃げた先には美しいのに恐ろしい女の姿。女は逃げてきた者たちに一瞬憐れみのような色を瞳に宿したが、すぐ、迎撃の構えとなった。
サイに恐怖のまま切りかかった青年を女戦士は半歩だけ後退して躱し、腹部に爪先を埋めた。
「ごぇ、えぐぇげが……?」
「邪魔である」
冷たい一言でも相手を切ったサイは立ち向かおうとしている者たちを睥睨した。悪魔の睨み。
あまりにも冷たい瞳。徴兵令で集められた農民たちは委縮し、硬直してしまう。サイの瞳に宿る鋭さは歴戦の戦士に匹敵し、果ては抜いていく鋭利さを湛えている。
悪魔の睨みに門兵たちは縮みあがってしまい、後退りするが、ひとりが逃げだしたあとは早かった。ひとりが逃げ、退路に急ぐとまわりも一斉に逃げはじめる。
逃げていく先はサイたちの進軍先であるのに。ただ必死に助けを求めて駆けていく憐れさ。
「正念場である」
「ああ。……えと、父上、何度も言いますが」
「あーあー。わかっとる。ちと話をしたいだけだ」
「構うな、ココリエ。どうせ叱るのはセツキで叱られるのはこいつだ。私たちは関係ない」
「おいこら。そなたの不敬はどうにかならんのか」
「ならぬ」
即答でした。サイはファバルに敬意など抱けないと即答しやがりました。これが鷹辺りに聞かれていたら説教されるのはサイの方だ。王に敬いの心を持たないとはうんたらかんたらと
サイのいつも通りの態度にやれやれと思って男ふたりが車からおりる。イークスたちを適当な店の丸太に繫いで待っているように、と言い聞かせて男ふたりはサイの先導で歩きだす。サイが門の向こうに踏み入ると同時に矢が雨霰と降り注いできた。が、サイは余裕無表情のまま。
矢を射た兵士たちはこれで仕留めたと思ったが、次まばたきしたあとにサイの姿はなくなっていた。ついでに一言添えると矢を放った弓兵たちの視界が変わった。
ずれていく視界。変わっていく視界。やがて見えている空間には赤が点々とうつり、果ては真っ赤になった。暗転していく視界に最後、現れたのは美しい悪魔だった。
「ここまでは計画通りだが」
「問題などカグラの実力がどうかだけだ」
「うーん、ぶっちゃけるとそうだが、なあ?」
なあ、と言われても困る。まさかここまで来てやっぱりやめよ、などと言わないだろうな。なんて心配したのはココリエだけではなかったが、ファバルはふと零す。
「平穏に暮らすを第一にするセンジュが宣戦布告……におうどころではないこのきな臭さがな」
「理由探しなど弱者の趣味だ」
「……。んん、まったくだ、サイ。では、いこう」
サイのきっつい言葉に苦笑するしかないファバルはやれやれと先へ歩いていく。先頭を歩くサイは先にそびえる質素な雰囲気の城を見てひとつ息を吐き、気を整えた。
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