お礼の夕餉
「ほぅら、たんと食べとくれ」
「食っている」
「いいからいいから」
なにがいいからだこらボケェ、とそう言いたいのをサイは必死で堪えた。ぐっと呑んでおく。
だってそれくらいの暴言が許されるくらいサイはかなり詰め込まれている。……なにをって? うん、夕餉?
ただ、いつも城で食べている量からして常軌を逸しているとすら思える特盛おかずアンド主食。
過程を見てこれは死ぬかもと思っていたが、ある意味予想通りとなってサイはげっそりした。
あのあと、
ぜひお礼をさせてほしい、とのことで集落のまとめ役たちの家に招かれた。あの時、サイがカゼツツで最初に助けた夫婦の家に招待されてサイは質素なご馳走により現在進行形で殺されそう。ふかした味の薄い芋っぽいもの。川魚の串焼き。漬物に山菜料理がちらほら並んでいる。
料理の品数はちらほらレベルだが、量は何人分だこれ、との突っ込みが許されそうなかなり恐ろしい大量ぶりでサイは見ただけであまりの量に戻しそうだった。だが、招待の礼儀として手をつけていく。残したら殺されそうだが、こんなたんまり食えるのは人間の胃袋では無理だ。
誰かさん、ウッペの虎辺りだったら喜びそうだがたいていの人間はこんな量がでてきたら「おえっぷ」となるに決まっている。勝手に確信しているサイはすすめに半分ほど乗って食べていく。食事に頓着があまりないので腹が満ちればいいと思っているサイは無表情で無言もぐもぐ。
「ケプヤのおかわりは?」
「不要」
「遠慮しないの。アンタ細いんだからいっぱい食べなくちゃ将来に元気なややが産めないよ?」
「やや? ……ややこしい?」
「? ああ、赤ん坊のことさ」
招待してくれた夫婦の片割れ、女が言った単語にサイは盛大に噎せる。ちょうど満腹を落ち着かせようと思っていたので、夫婦の子が淹れてくれた茶をありがたくすすっていたのでそれが鼻を奇襲しやがったのだ。変なところに入った茶に噎せるサイを見て夫婦と子らは笑った。
「サイ、こんなことで動揺するなんて意外とうぶだね。ねえ、イズキ、それにツユとマイも」
「大きな世話だ、ボケツバキ。笑うな」
「おいおい、サイ、俺の嫁さんの名で遊ぶなよ」
「それ以前に私で遊ぶ己らの脳がよほど腐っている」
サイの突っ込み。暴言突っ込みに夫婦は、イズキとツバキ夫婦、そしてふたりが少々致し方ない養子縁組でもらったふたりのこども、ツユとマイたち家族はおかしそうにする。おかしいのはこいつらの腐れ脳だから一刻も早く破棄させたいサイは不機嫌無表情で茶を一気飲み。
「馳走であった」
「あいよ。海外の食事と比べるといくらも劣るだろうが味つけはどうだったい? 薄くなかったかい? 海の外はずいぶんと濃い味つけの料理らしいじゃないか」
「偏見である」
「へえ? そりゃよかった」
よかったと言ったツバキは自分も茶をすする。サイが見ると一家は茶で寛いでいる。料理は気づくとほとんど消えていた。あの大量料理がどこに消えたのかかなり謎の怪奇現象だが、サイは突っ込まなかった。面倒臭いし、さっさと本題を話してというか訊いてお役ゴメンしたい。
まあ、そのお役を誰が言いつけたわけでもないのでしなくてもいいのだが、ここまで来たら探れるだけ探る方がいい。どうせ夕餉の時間に帰らなかったのでもう、ルィルシエにはどう転んでも泣かれる。どうせ泣かれるならば成果を持って帰る方が精神にいいと思ったサイである。
「あのようなことはしょっちゅうか」
「まさか。そんなおっかねえ」
サイの質問に答えてくれたイズキが続きを言うのに乾いた喉を潤す。茶を飲み干した一家の大黒柱は襲われた時に負った大小様々な傷を押さえて恐ろしそうに呟く。
「たしかに春のこの時期にはあるこたぁあるが、そんでも今日のはちょっと異常だ。
「ふむ。貧乏神や疫病神、死神でも見えたか」
「ははは、アンタぁホント女にしとくのがもったいねえくらい痛快だな。でぇ、ここにはどうした用事で来たんだぁ? こんな辺鄙な集落に偶然来たとは思えねえが」
突っ込まれてサイは無表情のままで肩を竦める。それはなんというか、「がっかり」とでも示しているのだろう。女戦士は心底落胆したかのように事情を説明してやる。
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