駆けつけた者たちと
「ルィルシエ様!」
「姫さん、ご無事で!?」
走ってきたのは、音の主はセツキとケンゴクを先頭にした武装集団だった。ふたりは数人の兵とココリエを連れている。ココリエは手に武器を持って周囲を警戒する。
その武器を見て、サイは微妙な気分になった。
ウセヤ山でサイが葬ったメトレット兵たちが持っていた武器、弓矢をココリエは持っていた。
己まで古風か、と突っ込みたいのを堪えてサイは再三になるがカザオニを確認。すると、目を離したのはほんの刹那だったのに、彼はとうに消えていた。周囲に気配もなければいた痕跡すらなくなっていた。そのことからもかなり熟達した実力者であると再認識せざるをえない。
認識を改めてサイはいまさらだったが怪我をどうしたものかと思った。生憎、救急セットとかそういうものは持ち歩いていない。業界に入ったばかりの一、二年はまだしも、最強を噂されるようになってからの四年は怪我らしい怪我負っていない。だから、カザオニはやはり強敵。
「わた、くしは大丈夫で、す。サイ、サイがっ」
「サイ、てめえよくやったな。お手柄だ、おふぅっ」
ルィルシエが自分の身は大丈夫だとセツキにサイの怪我を診てやってくれと訴える横っちょでケンゴクがサイの肩をべしべししようとして膝の裏を蹴られている。強烈膝かっくんを喰らったケンゴクが変な声をあげて崩れ落ちるのを後ろで見ていたココリエは苦笑して頬を搔いた。
サイは傷口から血を流しているが、存外元気そうで安心したのだろう。まあ、これだけの怪我だったら普通はもうちょっと弱る。だが、女は傍目に弱ったようにない。
「て、てめ、サイ。こちとら心配して」
「己に叩かれては傷に塩である」
「だ、だからって膝蹴んなよ……っ」
「違う。膝の、裏だ」
「屁理屈言うな。って、元気だなお前。んな青っ白い顔していて意外と血の気が多いのかー?」
ケンゴクの微妙に失礼な言葉にサイは反応しない。面倒臭いし、血が流れすぎて結構きつい。
放置すれば失血でしばらく使いものにならなくなりそうだな、と呑気に考えているサイの目の前に誰かがなにかを差しだした。黒い丸。錠剤を真ん丸くして大きくしたようなそれ。サイが訝って誰かの手をたどるとセツキの美貌が見えた。セツキはなにかをサイの手に押しつける。
サイが首を傾げるもセツキはルィルシエを護衛して林の外に抜けていく。あとをケンゴクが追った。残されたサイはイミフで首を傾げている。なに、どうしろと?
「増血剤と痛み止めを混ぜたものだ」
「む?」
「セツキは戦の時はいつもそれを持ち歩いている。せっかくだから噛んで、飲んでおくといい、サイ」
聞こえてきた声。優しい声。振り向くとココリエがいてサイの手元を覗き込んでいるのが見えた。綺麗な青年はサイがもらったものを説明してサイを見ている。
より正確なことを言うとサイの怪我を見ている。
かなり大きな傷にココリエは苦い顔、というか痛いような顔をしている。別にココリエは痛くないだろうに、イミフ、とサイはとりあえず自身のことにすら関心ない。
セツキからの施しはどうしてなのかわからないが、一応厚意であると思ってサイは従う。黒い丸薬を口に含んで噛み砕く。苦くえぐい味が口いっぱいに広がってサイは「うえ、すげえ味だ」と思ったがすぐココリエが腰にさげていた水筒をくれたので、栓を開けて水を一気に呷った。
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