第四話 欲望丸出しな冒険者達、逆に清々しいぜ!


 満月花採取作戦当日。天候が少々不安だったものの、早朝から透き通るような青空が広がっていた。


「おはようにゃん、二人とも。アキマルはよく寝坊しにゃかったにゃーん?」

「おはようシナモン。ふふん、これでも朝は強い方なんだぞ」

「おはようございます、シナモンさん」


 待ち合わせ場所として指定されていた、薬局近くの公園。結構早めに出たつもりだが、驚いた。既に、明丸の想像よりも多い人数が集まっていたのだ。

 トコトコと寄ってきたシナモンに、思わず尋ねる。


「え……まさか、ここに居る全員が一緒に来てくれるのか?」

「にゃふふ。そうにゃ、そうにゃ。みーんにゃ暇そうにしてたから、片っ端から声かけたのにゃん!」

「おいコラ、シナモン! こっちだって暇人ばっかりじゃねーぞ!」


 がはは、と豪快な笑い声。確かに、シナモン達は知り合いにも声をかけると言ってくれていた。だが、それは五日前のこと。多くの者には予定があっただろうに。

 人間と魔族、割合は丁度半々くらいだが。明丸達を含めると、十六人もの人数が集まっていた。


「ユアさんが困ってるって言うから、仕事を放り出して駆け付けたんですよー!」

「ユアとアキマルには、いつもお世話になってるからな」

「今日は大サービスだ、タダで探し物に付き合ってやるよ。でも、満月花以外のお宝があったら譲れよな?」

「皆さん……! ありがとうございます!」


 感極まって、深々と頭を下げるユアにウェーイと歓声じみた声が上がった。不思議だ、こういう熱血というか大学生みたいなパリピなノリは大嫌いだった筈なのに。

 今はただ、頼みしいばかりだ。


「二人は忘れ物とかにゃいにゃ?」

「はい、気合は十分です!」


 シナモンの問い掛けに、ユアが両手で握り拳を作って見せた。これから向かう場所はいつものルサリィの森ではない。地形も険しく、凶暴な魔物も多い場所だ。

 明丸自身もそうだが、いつもはスカートのユアも今日は気合の入った装いにしてきた。丈夫でぴったりとした作りのズボンに長袖のジャケット、皮のブーツに鍔付きの帽子。更に、長い髪は一つに纏めて結ばれていた。

 うーん、いつもと違うスポーティな雰囲気も中々良い。絶対に引かれるので、絶対に口には出さないけど。


「昨夜に準備してから三回はチェックしましたし、お薬も可能な限りリュックに詰めました! お店にも、ちゃんと『本日休業』の貼り紙もしてきました。ね、アキマルさん」

「ええ、準備万端です」

「そうにゃ、じゃあ早速出発するかにゃ?」


 ユアと顔を見合わせ、二人で力強く頷く。でも、ふと気が付いた。


「……って、あれ? シナモン、ハルトはどうした?」

「あら? そういえば……」


 ユアと共に、きょろきょろと辺りを見回す。普段は常に一緒に居る筈なのに、目の前に居るのはシナモンだけ。

 集まった冒険者の中には女性もちらほら居るし、また新しい扉でも開いているのだろうか。


「ハルトなら、そこに居るにゃ。おーい、ハルト―。アキマル達が来たにゃよー」

「……うん? お、おう。来たか、二人とも」


 シナモンの呼び声に、ベンチから立ち上がってハルトが歩み寄ってきた。いつもの防具と、槍。いつも通り、に見える。

 ……でも、何かおかしい。


「ハルトさん、大丈夫ですか? 少し、顔色が悪いように見えますが……」

「あー……いや、少し寝不足なだけだよ。昨日も暑くて寝苦しかったからさ」


 髪を掻きながら、気まずそうにしながらもハルトが明丸達に背を向ける。自然な動作だが、どうにも違和感を拭えない。

 まるで、これ以上は追求するなと言っているかのように感じる。


「よーし、皆揃ったな。それじゃあ、これから改めて今日の作戦内容を確認するぞ」


 何度か手を叩けば、全員がハルトの方を向いた。その姿は、もういつも通りの彼だった。百合好きな、ではなく。頼もしい冒険者のハルトだ。

 ……気のせい、だったのだろうか。


「事前に話しておいたから既に済んでるとは思うが、今回は十六人を五つのチームに分ける。一チーム三人、おれとシナモンはアキマルとユアで四人だ。薬局の二人以外は百戦錬磨の手練れが集まっていると思うが、魔界に近いルサリィの森ではどんな魔物がお出ましになるかわからねぇからな。常にチームで行動してくれ」


 冒険者たちが、隣や前後を見て軽く頷いた。満月花の調達が目的だが、それで怪我人が出てしまったら元も子もない。

 まずは、皆の安全の確保。全員バラバラに手分けして探した方が、効率は良いだろうが。そこは流石に曲げられない。


「それから、チームの一人にこの笛を持っていてもらう。満月花を見つけたら短く二回、手に負えないような魔物に出くわしたら長く一回、思いっきり吹いてくれ。笛の音が聞こえたら、他のチームもそちらに駆け付けるように」

「にゃー! ハルト、それシナモンが持つにゃー! シナモンが持ちたいー!!」

「へいへい。失くすなよ、予備はねぇからな」


 ハルトが各チームの代表に笛を配って、最後に残った笛をシナモンに渡した。丁度明丸の親指くらいの大きさで、首にかけられるよう紐が付いた銀色の笛は災害用のホイッスルに似ている。

 気に入ったのだろうか、受け取るや否や早速シナモンが口に咥えてピーピー吹き始めた。結構うるさい。


「それじゃあ、これで準備は出来たってことで。出発する前に、ユア。景気づけに何か言えよ」

「ふぁ!? わ、私ですか!」

「元々はユアが言い出しっぺなのにゃ! ビシィッと決めるにゃ!」


 ハルトにばしん、と肩を叩かれて。勢いそのままに、ユアが前に押し出される。そして、集まってくれた皆をきょろきょろと見回すと、恐る恐る口を開いた。


「み、みみ皆さん……お忙しい中、お集まり頂きありがとうございますぅ……」

「ゆ、ユアさん。結婚式のお父さんのスピーチみたいになってますよ」

「ひゃう! そ、そうですね」

「ユア、深呼吸にゃ」

「し、深呼吸……」


 すーはー、すーはー。胸に手を当てて、深呼吸を繰り返すユア。それだけでも大分落ち着いたのだろう。

 改めて、彼女は前を見つめて。


「……皆さん、今日はよろしくお願いします! アレクさんの為に、満月花を必ず見つけたいんです!!」

「おうとも! 任せとけよ、ユア!」

「ユアさーん、満月花を見つけたら褒めてくださーい!」

「魔人の男の子だなんて、大きくなったら絶対美男になるだろうし。未来のイケメンの為に、絶対に見つけましょう!」


 おー! と声が揃う。あー、何だかこういうの良いなぁ。何の根拠もないが、絶対に満月花を見つけられる。

 得体の知れない自信と、少しだけ乱暴な追い風が、明丸の背中を押してくれたような気がした。

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