『終演』は唐突に (後編)


https://kakuyomu.jp/works/16817139557946491917/episodes/16817330655542055992

 ↑の後の話(時系列はお任せします)


 一斉通信にて警告が発された、これはその直前のことである。

「ちょっと!何が登山家の勘とサガが囁くですか!?全然いないんですけど!」

「お前さんだって乗っかってきただろが!『煙みたいな人ですしねw』とか言ってよ!そっちの方が関係深いクセして影も形もありゃしねえし!」

 王冠山脈の頂きで、薄い酸素を無駄遣いしてぎゃあぎゃあと言い合う二人の男女。その話題の渦中にある少女がこの一帯どころかエリアそのものにすら存在しないことを、二人は登頂してからようやく気付いた。

 共に『彼女』とはそれなりの縁を持つ者。

 同郷にして同じく魔法の使い手、大道寺真由美。

 ひょんなことから共に大偉業を成すに至った登山家、セルゲイ・クロキンスキー。

 『彼女』―――高月あやかを捜索する二人は、高い王冠山脈の頂きにおいても騒げるだけのポテンシャル…というよりは経験と技能、そして能力を有していた。

 ひとしきりお互いの言いたいことを言い合ってから、無意味極まりない罵り合いを先に締めたのはクロキンスキー。そもそもからして年上にしては大人げなかったと少しだけ反省し、こほんと咳払いをひとつ。

「…とにかく、いないもんはしょうがない。次に行こうかお嬢さん。魔力なり魔法なりで行方を追えたりはしないのか」

「そんなに便利なものでもないんですよ…というより」

 真由美はクロキンスキーから目を離し、山脈の一角へと顔を向ける。

「もしかしたら、それどころじゃないかもしれません」

 視線の先には登頂前から嫌でも視界に入り続けていた超巨大な人型。緩慢に過ぎる動きが故にひとまず高月あやかの発見を優先して後回しにしていたが、その状況が今は変化してきている。

「ああ、あの馬鹿デカい巨人。少し前から戦闘が始まっちゃいるが、あれはおたくんとこの?」

「たぶんそうです。それできっと、あれは……世界を脅かすモノ」

 大道寺真由美は前回の『廃都時空戦役』から黒抗兵軍の名誉隊員扱いとなっている。もちろん本人は何も言っていないし志願もしてないし望んでもいない。

 しかしそれでも、あの一戦で得られる教訓は大きかった。彼女以外の魔法使い達もそれぞれに考えはあれども共通してこの世界の為に戦っている。

 であれば、自分も動くべきだ。

「ごめんなさいクロキンスキーさん。私は、」

 真由美は己が友人と女神の意向を天秤に掛け、そして女神の意志を優先した。世界の救済を願う彼女であれば、きっとそうするだろうから。

 言い終える前にセルゲイスキーは頷く用意をしていた。この少女はそれなりに頑固者だ。こうと決めたら説得は困難だろう。ただ、それなりに嫌々な態度だけは作っておこうと表情を顰めかけた時。


 ニチャリと、粘質な音が二人の背後から。


「何だ?今の気味悪い」

「―――」

 無警戒で振り返ろうとするクロキンスキーの隣で、真由美は一瞬にして全身から汗を噴き出した。

 頭が何かを捻出するより前に体が動く。


「音」

「ッ!」

 背後を向こうと上体を捻ったクロキンスキーの腰に抱き着くような恰好で、真由美が真横から強烈なタックルをかます。


「はっ!?」

「『反魔アンチマギア』!!」

 クロキンスキーの髭の先を焦がして、巨大な火球が通過した。衰えることなき火炎の塊はそのまま巨人の方角へと飛んでいく。

 呑気にそんな火球の行く末を見送っていたクロキンスキーとは対照的に、最短で最善を繰り出した真由美の魔法が模倣された海賊団船長の力によって異能を打ち消すフィールドを自身を中心に展開させる。

 

「ごふっ!……なっなんだぁ!?」

「しまった、そうか。……そうだった、此処には!」

 まったく状況に置いて行かれたままのクロキンスキーをそのまま置き去りにして、『反魔』の魔法で崩れ去る空間内をどうにか凌いでいた真由美は己の失態を大いに恥じた。

 この世界に来た初めの始めに、ハンズアップから。

 今は大人しくしていると、聞いていたのに。

 起こしたのだとしたら。その原因は他ならぬ自分にあるのだろう。

 情念の怪物を喰らうもの。終演エピローグにして最期を彩るものラストコール

 物語を終わらせる者エンドフェイズが動き出した。


「……ふ」

 真由美が小さく小さく笑う。小脇に抱えたクロキンスキーを異能無効化空間から離さずに抱きかかえたまま、意識を切り替える。

 ああ。ああ。

 

「憂いを断つ。今、ここで!!」

 フィールドスコープ片手に模倣した『反魔』と並行して『創造』の魔法を練り上げながら、大道寺真由美が目を見開く。

 我らが女神に負担は掛けさせない。招いたのが自分なのだとしたら、その責は自分自身で負う。


 神造巨人を背にして始まった、これも紛うことなき世界の存亡を賭けた戦い。

 ただし彼女は勘違いしていた。

 世界を救う戦いを、少女ひとりに押し付けるような無謀を善しとしない大莫迦が、このエリアに広がる一団の中には多くいたということを。





     『メモ(information)』


 ・『「終演」ラストコール・エンドフェイズ』、『大道寺真由美』及び『セルゲイ・クロキンスキー』と交戦開始。


 ・魔龍滅葬デッドエンド、『神造巨人ヴァリス』との交戦中である一帯へ飛来。


 ・『終演』に対し、数名の戦力が急行。

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