神造巨人兵団征伐軍、出撃


https://kakuyomu.jp/works/16817139557864090099/episodes/16817330656947146036

 ↑の少し前。




「またしてもお主らには寡兵を強いることになってしまうが、これまでの実績からやってくれると信じておる。頼んだぞ」

 ホテル及び軍事施設全体がドタバタと騒々しく部隊でひしめき合う中、出撃間際になった俺達と米津さんは横に並んで歩きつつ世間話のように世界の危機を話す。

「まあそれはある意味いつも通りなんでいいですけど…米津さんとこは結構多そうですね」

「六千強といったところじゃな」

「…ねえユーヒ、こっちはどれくらい来てくれるの?」

 次の戦が近づいてやや緊張気味のエヴレナに問われ、頭で数え指を折ってざっくりとした数を算出する。

「えーと二千。……ギリまで出してもらっても三千届くかどうか、くらいかな」

「おじいちゃんとこの半分!以下っ!これ戦力配分大丈夫なの!?」

「問題ないじゃろ」

 しれっと言ってのける米津さんにエヴレナが泣きそうな目で訴えかけるが、意志が揺らぐ様子は無さそうだ。

 正直、俺もそこまで兵力差に関しては心配していない。

「米津さんが大丈夫って言ってんだから大丈夫だろ。ですよね?」

 この人は軍属で最高権威を持つ元帥閣下だが、血の色はちゃんと赤い。雑兵ひとつを取っても無駄死にさせるような無能ではないことはこれまでの共闘でしっかり見せてもらっている。

 その元帥が『問題無し』と判断したのなら、それには確たる根拠がある。

「カルマータですか?」

 なおも不満を口にしかけたエヴレナを抱き上げて口を塞いだまま、ヴェリテが少ない材料の中からもっとも可能性の高い存在を口にする。

 聡明な雷竜の端的な正答に、米津さんは満足そうに頷いた。

「先の通信連絡の際にあの大魔女はこう言うておった。『物量差はこちらで賄う、必要なのは突破力に秀でた個の精鋭』とな。故にあの巨人は主らに任せることにしたのよ」

 それで合点がいく。

 おそらくカルマータも対巨人戦にて必要な要素が何であるかを理解していたのだろう。『衛星レーザー砲ダモクレス』の発動までを視野に入れていたかは定かではないが、それでも巨人を穿つに必要なのは数よりも一撃に重みを持つ戦力。これも時空竜戦での戦い方と同様だ。

 下級天使は後でも殲滅できる。現在進行しているもっとも大きな脅威を取り除く為に、俺達はまず動かなければならない。

「それに」

 考えを巡らせていた俺に、米津さんは歳に見合わないお茶目な笑みを向けてくる。

「ぬしらとて、無策ではなかろう?」

「……、敵いませんね」

 見抜かれている。俺達が俺達なりに出した巨人を討つ矛、それが最大最強の切り札になるものであることを。

 流石にそうでなければここまで平静でいられないか。…いや、この人ならばどんな時でも冷静さを欠くなんてことはあるまいが。

 なんて話している間に、ホテルの正面玄関まで来ていた。一度足を止め、元帥閣下に向き直る。

「行ってきます。米津さんもお気をつけて」

「何を気負うことがあろうか、我らにとっては慣れたものであろう?」

 いつもは陣頭に立って部隊を鼓舞するのが常である米津さんも、今は俺達だけだからなのか少しだけ砕けた態度で軽く言ってのけた。

「そうですね。では」

「うむ。それでは」

 だから俺達もそれに乗ずる。



         きます」

「「世界を救って

         くるかの」


 フロンティア世界何度目かになる、世界の危機へと俺達はそれぞれに臨む。




     ーーーーー


「おう来たか」

「いつでも出れるよー!」


 軍事施設ヘキサゴンに隣接された滑走路へ赴くと、そこにはずらりと並んだ『桔梗』の飛竜達と既に騎乗を終えた兵軍の戦士達。それとこれまたシャザラックに超急造で造ってもらったいくつかのコンテナとそれを積載したロケット。

 飛竜で運びきれない火器や人員はそのままロケットで直接戦場であるミナレットスカイ近辺まで吹っ飛ばしてもらう手筈になった。これも提案者はシャザラックだ。マジでどういう頭の回路しているんだろうとは思う。

 一応着地前に不必要な推進パーツとかを分離させて安心安全に着陸できるようにはなっているらしいが、ここまで荒々しい物資輸送機構ユニットロードシステムは見たことも聞いたこともない。搭乗する兵軍員も青い顔をしている者が多い。

 戦闘が始まる前から士気に関わりそうだ…。

「それでもシャザラック大先生様様ではあるよな…。そっちも、…その様子だと準備は万端みたいだな」

 顔を向けた先には、竜化シュライティアの背中にうつ伏せで寝転がっているアルの姿があった。こんな大戦を前にして余裕……というわけではなく、あれは単純に疲労から来ているものだろう。

 当のアルは俺の声に反応してゆっくりと顔を上げる。その背中を労わるように白埜がさすっていた。

「おお、夕陽か。…………流石に疲れたぜ。現地着くまで寝てるぞ俺は」

「そうしてくれ。白埜、アルのこと頼んだ」

「……おまかせ」

「いやお前はマジで来んのかよやめとけって…」

 大事な娘が戦場に同行する気満々なのを引き留めようと伸ばす手も弱弱しい。なんなら白埜に手を握られて活力を注がれてすらいる。介護じゃん。

 この体力無尽蔵お化けにすら思える妖魔がこれほどまで疲弊するほどの負担。だがそれだけの価値がある。

 ―――まぁ、それすらもまだ未確定ではあるのだが。

 相変わらず博打要素の強い部分が多く不安もあるが、どうせそれも今更だ。これまでの戦いそのいずれにしても、一切の問題を抱えない完全な策も戦略もありはしなかった。

 何より、俺にはその勝率を限りなくこちら側に寄せてくれる幸運の女神がいる。

 俺は異世界の女神なんかには祈らない。

「いつものように、今回も頼むぜ相棒」

「…っ!」

 ふんすふんすと鼻息も荒く、幸は両手を胸元でぎゅっと握り俺の言葉に強い頷きを返してくれる。まったく頼もしい限りだ。

 それに。今回は。


「……」


 あの人がいる。

 あまねく異世界をして敗けを知らず。天上天下三千大千世界においても並び立つ者を俺は知らない。

 人の形をした破壊に、かつて遭遇したことがあるが。

 人の形をした勝利の女神を、俺は彼女以外に見たことがない。

「…うん?なんだい、夕陽」

「…いえ、なんでもありません」

 俺には俺が信頼する女神が二人もいる。

 これが揃って同じ戦に出るというのだから、負ける未来なぞ欠片も見えるはずがない。

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