VS 佐前天山(前編)


https://kakuyomu.jp/works/16817139557946491917/episodes/16817330650306072828


 この話はビト様の話(↑)の続きからになります。ご承知おきください。




     ーーーーー


 三者。いずれも共闘の経験を持たず。

 しかし無数の死線死闘を生き抜いてきた心身が秒速で解答を導き出した。

 徒手の魔法使いと、双剣の竜と、鍛師かなちの妖魔。

 なんの示し合わせもなく、それぞれが進行方向を定め一人の巨漢を囲い込んだ。

「りゃあ!!」

 初手、正面切って高月あやかが跳び出す。

 自身にとっての天敵である禍時剣を握る天山との真正面からの打ち合い。それに怯えを見せるほど、この少女は見た目通りの少女気質ではなかった。

 巨体に見合わぬ俊敏さであやかの殴打脚撃をひらりと避け、晒した隙を狙いにいく。

 〝増幅〟の魔法を施された一撃は速度も重さも尋常ではない。目で追うのではなく、おそらく戦闘勘から避けている。その辺りもこの三者によく似た武人であった。

ッ!」

 滞空する他二振りの刀を払い、手数で勝る双剣使いが横合いからあやかの隙をカバーする。

 睨みつける天山から強烈な突風が吹き荒れるも、これを自前の気流操作ウィンド・マスターにて相殺。間近にいたあやかですら踏ん張りきれないほどの風の叩きつけ合いになる。

 ならばと指を立てると、今度は地面から粘度の高い水の濁流が噴き出て互いの間に障壁のように展開された。

「この程度」

 双剣から放つ圧縮風刃ストライク・ブレードで水流を斬断する。水を裂いた先に立つ天山はいつの間にか武器を持ち換え、地面へと突き立てていた。

 途端、大地が凍り付き、地面に広がっていた粘性の水分を凍結される。地面伝いに足首まで水に浸していたシュライティアの機動力が強制的に奪われた。

「次だ、煉獄刀」

 突き立つ氷雨丸から手を放し、新たな刀を握り込むと刀身から炎が伸び上がった。

 風の刃で足元の氷を砕くが、燃える刀が振るわれる方が速い。〝増幅〟で再度距離を詰めたあやかの蹴りが割り込みその太い腕を弾くが、振り切った刀から放たれた炎の渦にシュライティアが呑み込まれた。

 煉獄刀を手放し、再び最初の刀―――禍時剣を手にした天山に舌打ちする。どこまでもあやかの弱点を狙ってくる。

 そこへ他二名より遅れてアルの抜刀が背後から迫る。滞空二刀がこれを受け止めた。

「どうした筋肉自慢。こんな細っこい刃が怖いかよ?」

「その威勢、どこまで続くか見物だな」

 挑発に半身振り返った天山の胴をあやかの拳撃が打つ。短い時間で重ねられるだけ重ねたリロードショット。天山の身体は一歩も下がることがなかった。

「やぁっぱインチキ使ってんなこんちくしょう」

「高度に発達した筋肉は魔法と変わらん……いや、魔法すら上回る!」

 理屈の通らない正体不明の硬度で魔法を受け切った天山が殴り返すと、少女の身体は気味の悪い音を立てて肉体を破壊されながら吹き飛び直線上の建物に突っ込んで粉砕した。

 残るアルは片手に握る金色の刀身を持つ一振りで三刀と巨体に斬りかかる。

 自動攻撃する刀と、刀傷を再生不可にさせる能力が活きた刀との打ち合い。禍時剣での負傷のみを避け、その身は瞬く間に傷だらけになる。

 浮いたまま切っ先を向ける煉獄刀から炎が吐き出されるのを見て、足元から急造で剣を作り上げ引き抜く。

「〝劫焦炎剣レーヴァテイン〟」

 炎撃が互いに喰らい合い消滅した間際に水流が飛び込んでくるのを、炎剣を放り棄て空いた手からさらに生み出した刀で相対す。

「…〝玉散露刀ムラサメ!〟」

 振るう軌跡をなぞる形で対になるように刀身から吹き荒れた水撃が粘性の水流を洗い流した。

「芸が多いな」

「こっちのセリフだ筋肉馬鹿」

 両手の二刀で眼前の天山と武装を押し付け合う。

 だが鍔迫り合いは長く続かず。不意に足元から吹いた突風にアルの身体が浮かされ、その瞬間禍時剣が上段から落とされる。

「ハッ!」

 生み出した水で厚みを持たせた刀が巨躯の膂力に負けて半ばから折れるも、かろうじて直撃は防ぐ。

 残る一本の刀を高々を掲げた。

「フン。そんな刀で我が肉体は……、!!」

 自身の肉体と術法に絶対の信頼を持つ天山の顔色が言葉途中に変わる。

 近接から繰り出される最速の掌底を腹に受け、吐血するアルがあやか同様に吹き飛び廃工場を囲う高い壁に背中から痛打し瓦礫の中に姿を消す。

「…………」

 天山は半裸の上体を静かに見下ろす。

 吹き飛ぶ直前、あの妖魔は掌底への防御も疎かにただ一刀の斬撃にのみ意識を向けていた。

 そして事実、あの一瞬で掲げた刀の閃きは天山の胸部へ袈裟に刃を触れさせた。

 。それだけである。刀は威力もそこそこに、そもそもが天山の表皮すらも裂けなかった。

 だが。

「……げほっ。よーしよし、その様子見るに、どうもうまくいったらしい」

「魔の物よ。貴様よもや」

 瓦礫の中から起き上がったアルが血液を吐き出しながら愉快げに喉を鳴らす。

 金色の刃。それは両端が三叉に分かれた奇怪な柄を持ち、どうアレンジが加わったのか本来剣として名称を有す両刃のはずが、その造形を刀に近い片刃のものとなっている。

 大日如来の化身、無数の信仰を寄せる御仏が一柱の加護を梵字として刻んだ調伏の鋭剣。

 破魔の所縁を持つこの剣は魔の物に対する特効性を持ち、同時にあらゆる理外の術法を断絶させる特性も併せ持つ。

 即ち、刃、〝不動利剣コウマミョウオウ〟である。

風刃竜シュライティアの鱗弾喰らっといて無傷、魔法少女こむすめのイカれた魔法パンチ受けても無傷。とくりゃあ必然、それなりの細工はあると踏むのが当たり前だよなァ。加えて言やァ、俺は金行使い。金剛の術にはそれなりに心得がある。使えねェけどな」

 必要のなくなった不動利剣コウマミョウオウを自壊させ放り投げ、瓦礫から新たに刀剣を生み出す。

「というわけで、オラ!クソ厄介な鋼体ペネトレイトは剥がしてやったぞ。いつまでダラダラやってんだボケ共!!」

 アルの一喝で、まず全壊した建物の中から高月あやかが盛大に四周を爆散させて現れた。

「はいリロードスペアっと。んでなに?インチキ解除されたって?そんなギミック満載だなんて聞いてにゃいんですけどー」

 次いで、炎の竜巻の中から。さらにその規模を超える暴風が炎を消し散らして、シュライティアが着地する。

「火竜のブレスに比べれば生温い。この程度で竜種を焼けると思うな」

 多少のダメージはあるものの、三者未だに健在。それぞれが最善最適の立ち位置を確保した上で、その視線を一身に受ける天山はおもむろに口角を上げた。


「いいだろう。我が前に立ち塞がる資格を認めてやる。来い!」


「はっ」

「そんなもの」

「言われずともよ!!」


 金剛を解かれたとてその覇気、威容はまるで揺らがず。

 歯を剥き目を見開き、戦に狂う者達はそれぞれの獲物で牙を立てる。

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