禁断の果実が届く。


最近席替えがあり、私の席は1番前の列の廊下側になった。

そして月曜日。

山田問題を取ってトイレを経由して前のドアから前かがみ気味で教室に一歩踏み入った。


凍りつく空気を感じるほどクラス中が静まり返って、一様に息を飲んで私を見ている…。


???

なんだなんだ。


メガネの真ん中に指をあて冷静に何が起きているのか、何かしでかしただろうかと考える。

真ん中あたりの席の瀬波マコが小走りで駆け寄る。

「リナさん大変です!」

「どうしたのですかマコさん。この凍りついている空気の原因はなんですか?」

「これに見覚えはありますか?」

マコが指をさすのは私の机。


…?


見ると可愛い赤いチェックの小さな紙袋が置いてある。まるでプレゼントだ。



嫌がらせだろうか…。

こんな大ぴらに置いておくなんて。

もうちょっと恥じらいを持って置いてほしい。


女子がクッキーとか入れるようなラッピングの紙袋。

私と広瀬マコが紙袋の中身を確認するまで、いやクラス中が確認できるまで、こも異様な沈黙と注目は続くのだろうか。

持ち上げて見るとずっしり重い。


「重い…!」


私の一言に教室中が息を飲んで、一歩後ずさった。


「リナさん!それは…ま、まさか爆弾!?」


ズサ!

ガタ!


広瀬マコの言葉に全員が、机の下にかがんだり、伏せた。

そりゃあ私も焦りますわ。

なんか大きな重たい固形物が入っているのは間違いない。

なんなの…?


教室中が、不発弾がが発見されたときの様な緊張感を漂わせる。


「あけましょう。」


広瀬マコが冷静に言う。

広瀬マコの分厚いメガネの縁がキラリと光る。


「なにかステキなアイテムかもしれません!」


マコさん…ここはゲームの世界ではないですよ。

内心思いながら、紙袋を開けた。

紙袋上方からは、中身が見えた。


「!!!!」





え。


え。



きっも!!!!


これは失礼。


“キモヲタ”の異名を持つ私が失言だったわ…。


あまりの衝撃に、取り乱してしまったじゃない。


あ。みんなの期待と安心のために、取り出しましょうか。


ガサガサ。


「り、リナさん!そ、それは…!」

広瀬マコのメガネの縁がキラリと光る。


「禁断の果実ですね。マコさん。」

メガネの真ん中に指を当てて右手のものを凝視する。


クラス全員が蒼白である。


それもそのはず、私の右手には林檎1個が握られている。


この送り主をクラスの誰かは知っているのだろうか。


「いったい誰が何のためにリナさんに林檎を?」


紙袋の中に小さなメモが入っている。

読み上げて見る。


『僕とこの林檎を半分こしてください。


九重ガク』



「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


クラス中が悲鳴に包まれた。

男子も女子も、みんな口々に叫びにも似た言葉を吐きだす。

「天変地異だぁぁぁ!」


「誰がこんないたずらしたのよ!」


「ガリちゃん絶対いたずらよ!」


「絶対なにかの間違いよ!」



「…。」

私に向かってみんなが口々に言い出す。

私だって思いたいが。

あの王子ならやりかねないんじゃないかとも思ってしまう…。


キーンコーンカーンコーン。


「おーい!何騒いでるー。席付けー。」

太った担任の「耳ハラ」が入ってくる。


耳ハラは、本名『中原』だが耳の穴から大量の毛が生えているのでみんなから耳ハラと呼ばれている。

クラス全員が、ざわつきを抑えながら席につき始める。

朝のホームルームが始まる。

「欠席いるかー?」




『僕は数字で神と人間が共存していることをーー…。』

あの言葉と、陶酔した目には、なかなかオタク気質な匂いがしたのは私だけだろうか。


いや待て、その前に…

なぜ彼が私に謎のメッセージと謎のプレゼント(林檎)をしてきたのだろうか。















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数字の森の白雪姫 もちもん @achimonchan

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